特定技能外国人を採用したものの、事務手続きの負担や、出入国在留管理庁(以下、入管庁)への提出書類の適法性について課題を感じている企業様は少なくありません。人手不足の緩和に向けた制度として特定技能の活用が進む一方で、その運用においては法令に基づく「継続的な管理と報告の義務」が規定されています。
2026年現在の外国人雇用を取り巻く法制度は、「労働力の確保」だけでなく「権利の保護と共生社会の実現」を重視する方向へ移行しつつあります。労働関係法令や入管法に基づく指導も適正化が図られており、企業には日本人従業員と同等以上の適切な労務管理が求められています。
本コラムでは、特定技能制度をはじめとする外国人雇用の実務的な留意点を整理し、法令遵守の観点から「社会保険労務士(社労士)」と「行政書士」の連携がもたらす利点について解説します。本コラムが貴社の安定した外国人雇用管理体制を構築する一助となれば幸いです。
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目次
1.特定技能制度における定期届出の実務対応
特定技能制度の運用における実務的な負担の一つとして、在留資格の許可後も継続する報告義務が挙げられます。他の「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザでは入管庁に対する定期的な報告の機会は限られていました。
一方、特定技能制度においては、受入れ企業は外国人本人の活動状況や会社の支援状況について、所定の期日までに定期的な報告を行う義務があります。
(1)「年1回の定期報告」への変更と留意点
2025年4月の制度変更により、それまで四半期ごと(年4回)に行っていた定期報告が「年1回」へと変更されました。提出期間は「対象年度の翌年度の4月1日から5月31日まで」と定められています。
手続きの回数は減少したものの、1年分の労務データをまとめて報告・審査される仕組みとなったため、常日頃からの正確な記録とデータ管理がより一層求められるようになります。
| 報告書類の名称 | 報告の内容 |
|---|---|
| 定期届出書(参考様式第3-6号) | 受入れ状況や労働条件(賃金・労働時間・昇給率など)を記載します |
| 別紙1(参考様式第3-6号別紙1) | 特定技能外国人ごとの活動状況や報酬の支払い方法などを記載します |
| 別紙2(参考様式第3-6号別紙2) | 支援を登録支援機関に全部委託している場合に、支援機関の署名を受けるための書類です |
これらの書類を作成するにあたり、行政側は「賃金台帳」と「出勤簿」を照らし合わせ、時間外労働の割増賃金が正しく計算されているか、各種控除額(税金や社会保険料)に誤りがないか等を確認します。
報告遅延に関する留意点
提出期限の超過リスク
…法令に基づく届出期間内に提出が行われない場合、理由の如何を問わず報告義務違反と判断される可能性があります。
報告の遅れや漏れが生じた際、行政から再三の指導を受けたにもかかわらず義務を果たさないような場合は「欠格事由」に該当し、一定期間(5年間)の受入れ停止措置を受けるリスクが生じます。
2.「日本人と同等以上の報酬」要件と証明方法
特定技能の審査において、重点的に確認される要件の一つが「賃金(報酬)」です。特定技能の許可を得るためには、単に地域の最低賃金を上回っているだけでは要件を満たしません。
労働基準法第3条で国籍による差別的取り扱いが禁止されている通り、外国人従業員に対しても「日本人と同等以上の報酬であること」を客観的なデータに基づいて説明し、立証する必要があります。
(1)比較対象となる日本人の選定と賃金の妥当性
入管庁への特定技能ビザの申請時、企業は「比較対象となる日本人従業員」を選定し、その賃金水準と比較した上で、外国人従業員の賃金が妥当であることを示す説明書を作成します。
- 同等の業務を行う日本人がいる場合
比較対象の日本人と同額、あるいはそれ以上の基本給や手当を設定する必要があります。勤続年数や保有資格などの合理的な理由により賃金に差が生じる場合は、その旨を記した「理由書」の提出が求められます。 - 同等の業務を行う日本人がいない場合
近隣の同業他社の事例や自社の賃金規程に基づき、「該当業務を日本人が担った場合に想定される賃金水準」を算出し、論理的な基準として提示する必要があります。
(2)社労士視点での労務リスクの防止
報酬要件を審査される際、指摘を受けやすい項目の一つが「手当の不一致」です。
例えば、日本人従業員には支給している「皆勤手当」や「住宅手当」を、外国人従業員であることを理由に支給対象外とする運用は、同一労働同一賃金の原則や労働関係法令に抵触する恐れがあります。
自社の賃金設定が適正であるかを確認するため、以下の項目をご活用ください。
報酬設定の確認チェックリスト
- 比較対象となる日本人の「賃金台帳」および「労働条件通知書(雇用契約書)」の記載内容と整合性がとれているか
- 外国人従業員に適用される就業規則や賃金規程は、日本人従業員と共通のものか
- 時間外労働の割増率は法定要件(25%以上など)を満たし、正確に計算されているか
- 控除項目(寮費・水道光熱費など)の金額は、実費相当額の範囲内に収まっているか
また、「寮費」の設定についても留意が必要です。実際の賃料や維持費を著しく超える額を給与から天引きしている場合、不当な賃金控除とみなされ、行政指導や申請不許可の対象となる可能性があります。
3.特定技能制度における実務上の留意点
労働基準監督署や入管庁の調査において指摘を受けやすい、実務上の留意点を3つ挙げます。特定技能制度は、「労働基準法」「出入国管理法」という2つの法律が複雑に絡み合っています。そのため、労務の専門家である「社労士」と入管法の専門家である「行政書士」が連携することが、企業にとって安全で効率的な解決策となります。
(1)管理監督者の取り扱いと労働時間管理
「特定技能の従業員を現場の責任者に任命したため、残業代の支給対象外とする」といった取り扱いが見受けられることがあります。しかし、労働基準法において労働時間規制の適用が除外される「管理監督者」の要件は厳格に定められています。出退勤の裁量がなく、経営者と一体的な権限を持たない場合は、労働基準法の管理監督者として認められない可能性が高くなりますので注意が必要です。
未払い残業代の存在は定期報告を通じて明らかになるため、結果として受入れ停止などの処分につながるリスクがあります。
(2)住民税の納付に係る事務手続き
特定技能外国人が来日して2年目以降になると、前年の所得に応じた個人住民税(市県民税)の納付義務が発生します。企業は原則として、毎月の給与から住民税を特別徴収(天引き)し、自治体に納入する義務を負います。
手続きが漏れて普通徴収のままとなり、本人が納付を滞納した場合、在留資格の更新審査に支障をきたす可能性が高まります。
加えて、2024年の入管法改正(2027年までに施行)により、故意に税金や社会保険料を滞納した場合は、永住許可の取消事由となることも法定化されました。企業側の事務手続きの遅滞が、従業員本人の将来の在留資格に不利益を与えかねないという点は、適正な労務管理において極めて重要な留意事項です。
(3) 資格外活動(副業等)への対応
就労ビザは、許可された特定の業務分野でのみ就労が認められています。例えば、「建設」分野の在留資格を持つ従業員が、休日に飲食店でアルバイトを行うことは資格外活動となり、法令違反に該当します。
従業員個人の活動であっても、企業側がこれらを黙認した場合、「不法就労助長罪」に問われる可能性があります。2024年の入管法改正により不法就労助長罪の罰則は強化されるため(5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金)、社内でのルール周知と指導がより重要となります。
4.「育成就労制度」への移行と外国人材の定着化
外国人雇用の制度は継続的な見直しが行われており、2027年には、現在の技能実習制度に代わる「育成就労制度」が創設されます。新制度は「人材確保と育成の両立」を目的としています。
育成就労制度では、未熟練の外国人を3年間で特定技能1号の水準まで育成し、中長期的な就労へ接続させる枠組みが想定されています。
育成就労から特定技能へ移行するための主な要件
- 日本語能力試験の合格(N4以上・A2相当)
- 技能検定3級相当(または特定技能1号評価試験)の合格
- 良好な勤務状況(育成就労計画の達成)
育成就労制度への移行に伴う企業側の留意点として、一定の要件下での「転籍(転職)」が認められる点が挙げられます。従業員が就労環境や待遇に不満を抱いた場合、他社へ転籍する可能性が生じます。
人材の流出を防ぐためには、入社前後の日本語教育支援の充実や、公正な評価制度の導入など、従業員が働きやすい環境を構築する取り組みが求められます。
5.年金制度改正に伴う「脱退一時金」の実務対応
社会保険の加入要件を満たす場合、外国人従業員についても適正な加入手続きを行う義務があります。同時に、日本の年金制度には、帰国する外国人が納付した年金保険料の一部を受け取れる「脱退一時金」という仕組みが存在します。
この脱退一時金に関して、2025年の年金制度改正法により重要な制度変更が行われます。施行日は「公布(2025年6月20日)から4年以内の政令で定める日」とされており、遅くとも2029年6月までには適用が開始される見込みです。
特定技能制度などにより就労期間が長期化する実態に合わせ、支給額の計算基礎となる上限期間が、従来の「上限5年」から「上限8年」へと延長されます。
また、実務において注意すべき点として、改正法の施行日以降は「再入国許可(みなし再入国許可を含む)」の有効期間内は、脱退一時金の請求ができなくなります。帰国を予定している従業員に対しては、事前に制度内容を正確に案内し、手続き上の誤認を防ぐことが、労務担当者の役割として推奨されます。
6. 専門家(社労士・行政書士)連携によるサポートの有効性
特定技能制度に基づく雇用管理は、労働基準法等の「労働関係法令」と、入管法をはじめとする「出入国管理法令」の双方が適用される領域です。 そのため、労務管理を専門とする「社会保険労務士」と、在留資格手続きを専門とする「行政書士」が情報を共有し連携することは、企業のリスク管理や実務負担の軽減において有効な体制といえます。
(1) 社労士と行政書士の役割分担
実務における各専門家の主な対応領域は以下の通りです。
| 業務プロセス | 行政書士(入管法令の対応) | 社会保険労務士(労働・社会保険法令の対応) |
|---|---|---|
| 在留資格の申請・更新・変更 | 各種在留資格の手続き代行(在留資格認定証明書交付申請、更新、および変更許可申請)、審査基準に基づく書類作成 | 「労働条件通知書」や「雇用契約書」の法定要件確認、賃金水準の妥当性評価 |
| 定期報告・監査への対応 | 定期報告書類の作成、および出入国在留管理局への提出代行 | 報告書類の基礎となる「出勤簿」や「賃金台帳」の適法性確認、社会保険の加入状況チェック |
| 社内体制の構築支援 | 支援計画(事前ガイダンスやオリエンテーション等)の適正な実施サポート | 労働基準監督署の調査対策、同一労働同一賃金への対応、就業規則の見直し |
(2) 実務における手続きの整合性確保
実務上、注意が必要なケースとして、企業が作成した給与データをそのまま行政書士が入管庁へ提出してしまう場合があります。 行政書士は入管手続きの専門家ですが、労働法に基づく給与計算の適法性を担保する職責とは異なります。仮に時間外割増賃金の計算等に誤りを含んだ状態で報告が行われた場合、労働関係法令違反として行政当局から指摘を受ける可能性があります。
ここで社労士が連携することにより、提出前の段階で給与計算や労働時間管理の適法性を確認し、必要に応じて是正措置(不足分の支給や規程の見直し等)を助言することが可能となります。 行政書士が入管手続きの窓口を担い、社労士が労務データの適法性を検証する。このような専門家による相互確認体制の構築は、法令を遵守した特定技能の運用に寄与します。
7. 法令遵守に基づく持続可能な外国人雇用の実現
特定技能制度をはじめとする枠組みは、適切に運用することで、人材確保や企業成長の契機となります。その土台となるのは、労働関係法令および入管法令の遵守です。
- 定期報告や給与計算などの専門的な事務手続きを適切に管理する体制を構築する。
- 「日本人と同等以上の報酬」という要件に対して、客観的なデータを用いて合理的な説明を行う。
- 社会保険労務士や行政書士との連携により、労働基準監督署と入管庁の双方の視点を取り入れた労務管理を行う。
社内リソースのみでの対応に課題を感じられた場合は、専門家へのご相談も一つの選択肢です。第一綜合グループでは、経験豊富な社会保険労務士と行政書士が連携し、企業様の適正な労務管理をサポートしております。
正確な事務管理と法令遵守の体制を構築し、持続可能で安定した外国人雇用環境の実現を目指してみてはいかがでしょうか。
この記事の監修者
社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛
- 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
- 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)
東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。