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人事労務コラム

外国人雇用

公開日:2026.07.09

最終更新日:2026.07.09

【人事担当者向け】外国人社員の退職時に案内すべき「脱退一時金」実務と注意点

【人事担当者向け】外国人社員の退職時に案内すべき「脱退一時金」実務と注意点

近年、国籍を問わず多様な人材を雇用する企業が増加しています。これに伴い、人事担当者の皆様から、外国人従業員が退職し本国へ帰国する際の手続きに関するご相談が寄せられるようになりました。
退職手続きにおいては、社会保険や雇用保険の資格喪失届などを提出することで、企業としての公的な手続きは一区切りとなります。しかし、実務においてご相談が増えるのは、従業員が日本を出国した後に発生する「脱退一時金」の手続きです。退職手続きが終わり、従業員が本国へ帰国した後になってから、「手続きの仕方がわからない」「お金が振り込まれない」「税金の手続きをしてほしい」といった問い合わせが元従業員から企業宛に発生し、人事労務の現場が対応に追われるケースが見受けられます。
本コラムでは、外国人従業員の退職・帰国時に発生しやすい労務管理上の課題を整理した上で、企業が適正な手続きを行い、実務負担を軽減するためのポイントを解説します。帰国前に完了すべきチェックリスト、企業が「納税管理人」となる場合の実務上の留意点、そして社会保険労務士法に基づく適正な外部委託の重要性まで、人事担当者が知っておくべき情報を客観的にお伝えします。

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1. 外国人従業員が帰国・退職する際の人事労務トラブルの傾向

外国人従業員が退職し本国へ帰国する際、企業側は「雇用保険の資格喪失届」や「社会保険の資格喪失届」を提出すれば手続きは完了したと認識することが一般的です。しかし、実務において問い合わせが発生するのは、従業員が日本を出国した後であることが多くなっています。

その主たる原因が「脱退一時金」に関する手続きの認識の相違です。脱退一時金とは、日本の公的年金制度(国民年金または厚生年金保険)に加入していた外国人が、所定の要件を満たして帰国した場合に、それまで納めた保険料に応じた金額が支給される制度です。
ここで実務上、認識の相違が起きやすい傾向にあります。外国人従業員の中には「退職して帰国すれば自動的に年金が振り込まれる」「会社が退職手続きの一環としてすべて代行してくれる」と認識している方がいらっしゃいます。そのため、本国に帰国した後にご自身への入金がないことに気づき、元上司や人事担当者、あるいは会社の代表メール宛てに状況確認の連絡が入るという実態があります。
帰国後の元従業員とのやり取りには、以下のような実務上の負担が生じます。

  • 時差と言葉の壁: 帰国後は日本語でのコミュニケーションが難しくなることがあり、時差もあるため、メール等での対応に時間を要します。
  • 書類の不備による遅延: 本人が日本の年金事務所へ直接郵送して請求したものの、記入漏れや添付書類の不備(パスポートのコピー不鮮明・母国の受取口座を証明する書類の不備など)で書類が返戻され、その対応方法を企業側に質問されるケースがあります。

さらに、「会社が手続きをしてくれなかったから支給されないのではないか」といった誤解が生じると、企業への不信感につながるケースもあります。すでに雇用関係が終了している元従業員の年金手続きに対して、企業が個別に対応を続けることは実務上負担が大きいため、事前の案内を通じて円滑に手続きを進めることが推奨されます。

2. 「脱退一時金」制度の仕組みと支給要件

脱退一時金の制度を正しく案内するためには、人事担当者がその要件を把握しておくことが有効です。脱退一時金は、日本国籍を持たない方が国民年金や厚生年金保険の被保険者資格を喪失し、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求することで支給される制度です。日本の制度では、掛け捨て防止の観点から最長5年(60ヶ月)を上限として支給される仕組みとなっています(2026年現在)。

主な受給要件(厚生年金保険の場合)は以下の通りです。

要件の項目内容
日本国籍を有していないこと日本に帰化し、日本国籍を取得した場合は対象外となります。
公的年金制度の被保険者でないこと退職し、厚生年金や国民年金の資格を喪失している状態であることが必要です。
加入期間の合計が6ヶ月以上あること厚生年金保険の被保険者期間が通算して6ヶ月以上必要です。
日本国内に住所を有していないこと市区町村へ転出届を提出し、住民票が抹消されていることが必要です。

3. 帰国前に企業側で行うべき実務チェックリスト

退職後の対応負担を軽減するためには、従業員が日本に在留しており、直接コミュニケーションが取れる「帰国前」の段階で、企業側から基本的な案内を済ませておくことが有効です。 退職届が提出された段階で、以下のチェックリストに沿って必要な情報を本人に案内・確認することが実務上のポイントとなります。

 チェック項目実務上の目的と確認事項
基礎年金番号の確認と本人への通知脱退一時金の請求には「基礎年金番号」が必要です。年金手帳や基礎年金番号通知書を本人が所持しているか確認し、番号を控えてもらうよう案内します。
住民票の「転出届(海外転出)」の案内受給要件である「日本国内に住所を有していないこと」を満たすため、市区町村役場へ海外への転出届を提出するよう案内します。
帰国後の連絡先の確認事務手続き上の確認が生じた場合に備え、帰国後のメールアドレス等をご提示いただきます。
日本国内の銀行口座の扱いについて後述する税務上の手続き(源泉徴収税の還付)を行う場合、日本国内の銀行口座が残っている方が円滑に進むケースがあります。口座の解約予定について確認します。
脱退一時金請求書の事前案内日本年金機構のウェブサイト等から多言語対応の請求書を入手できる旨を案内し、手続きの概要を伝達します。

これらの案内を行う際は、「脱退一時金の手続きは、本人が帰国後にご自身の責任で行うものであること」「会社は手続きの代行機関ではないこと」を事前にお伝えしておくことで、相互の認識のズレを防ぐことができます。

4. 永住者など対象外となる従業員への案内

実務上の留意点として、「外国人従業員であれば一律に脱退一時金が支給される」というご案内をしてしまうケースがありますが、これには注意が必要です。前述の通り、一定の条件に該当する方は支給対象外となります。
対象外の従業員に対して誤った案内をしてしまうと、帰国後に手続きが却下され、トラブルにつながる可能性があります。企業側は、対象者が以下のステータスに該当しないかを確認しておくことが推奨されます。

在留資格などの条件支給の可否留意事項
就労ビザ(「技術・人文知識・国際業務」など)原則、支給対象厚生年金への加入期間が6ヶ月以上あり、要件を満たしていれば受給可能です。
永住者支給対象外となることが多い永住許可を受けている方は、日本を出国(転出)したとしても、在留資格を維持している限り日本の年金制度の対象とみなされることが多く、対象外となるのが一般的です。
日本国籍を取得した元外国人対象外在籍中に帰化し、日本国籍を取得した場合は対象外です。
加入期間が10年以上の従業員対象外日本の公的年金制度の加入期間が通算して10年以上ある場合、将来日本の老齢年金を受け取る権利が発生するため、脱退一時金として引き出すことはできません。
社会保障協定締結国の国民条件により異なる日本と「年金加入期間の通算」を含む社会保障協定を結んでいる国(ドイツ、フランス、アメリカなど)の場合、一時金を受け取ると将来その期間を通算できなくなるため、本人の選択となります。

人事担当者は、対象者のビザの種類や年金加入履歴を事前に把握し、状況に応じた案内を行うことが求められます。

5. 企業が「納税管理人」を引き受ける際の実務上の留意点

外国人従業員が脱退一時金の手続きを行うにあたり、企業として判断を求められることが多いのが「納税管理人」の引き受けに関する事項です。
厚生年金保険の脱退一時金が支給される際、支給総額から一律で20.42%の所得税が源泉徴収(差し引き)されます。この税金については、本人が日本を出国した後に「税務署に対して確定申告(還付申告)」を行うことで還付を受けることが可能です。しかし、本人はすでに海外に帰国しており日本に住所がないため、日本国内で税務手続きや書類の受け取りを行う代理人として「納税管理人」を定める必要があります。
退職する従業員から「会社で納税管理人になって手続きをしてほしい」と依頼されるケースがあります。企業名義や担当者個人の名義でこれを引き受ける場合、以下のような実務負担や留意点が生じることをあらかじめ考慮しておく必要があります。

  • 税務署対応の窓口となる点: 納税管理人になると、その元従業員の税務に関する税務署からの通知が企業宛てに届くことになり、状況によっては対応窓口として機能する必要があります。
  • 海外送金の実務負担: 還付金は納税管理人の口座に振り込まれるため、企業は預かった還付金を元従業員の海外の銀行口座へ送金する手続きを行うことになります。外貨建て送金の手配や手数料の処理など、経理面での工数が発生します。
  • 金銭授受に関する認識の相違: 送金手数料の負担区分や為替レートの影響により、本人が想定していた着金金額と差が生じた場合、内訳について詳細な説明を求められることがあります。

企業として、雇用関係が終了した個人の税務手続きをどこまでサポートするかについては、本来の業務範囲外となるため、社内で対応方針を定めておくことが推奨されます。

6. 外部委託を活用する場合の適法性の確認

退職時のご案内や手続きのサポートにおいて、企業の実務負担を軽減するために外部の専門家へ業務を委託、あるいは専門家を従業員に紹介するという選択肢があります。この際、委託先が関係法令を遵守しているかを確認することが重要です。
脱退一時金の「支給請求書」を年金事務所へ提出し、申請を代行する業務は、社会保険労務士法に基づき社会保険労務士の業務とされています。社会保険労務士の資格を持たない者が業として報酬を得て手続きを代行することは、同法第21条に抵触する行為となります。無資格者による申請が行われた場合、法違反に問われる懸念が生じます。

7. まとめ:脱退一時金業務を適正化しましょう

外国人従業員が円滑に退職・帰国手続きを進められるようにサポートすることは、企業の人事労務管理において重要なプロセスのひとつです。
本コラムの要点をまとめます。

  • 退職後の実務負担を軽減するため、在籍中(帰国前)に必要な手続きの案内を済ませる。
  • 永住者や年金加入10年以上の従業員など、脱退一時金の「対象外」となる要件を確認し、適切な案内を行う。
  • 税務手続きや海外送金の実務負担を考慮し、企業が「納税管理人」を引き受けるかどうかの社内方針を定めておく。
  • 脱退一時金の請求代行や還付申告を外部へ委託・紹介する場合は、社会保険労務士や税理士など適法な専門家を選定する。

外国人雇用の労務管理において、退職・帰国時の手続きは複雑になりがちです。元従業員との間で生じやすい年金・税金に関する疑問点を事前に解消し、適正な手続きを促すためにも、制度の正しい理解と専門家の活用をご検討ください。 社労士法人第一綜合事務所では、外国人従業員の退職に伴う脱退一時金実務のサポートや、企業の国際労務に関する体制構築をご支援しております。退職予定の従業員への対応についてご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛

  • 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
  • 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)

東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。

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