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公開日:2026.05.22

最終更新日:2026.05.22

【2026年10月施行】カスタマーハラスメント(カスハラ)対策義務化!企業に求められる雇用管理上の措置

【2026年10月施行】カスタマーハラスメント(カスハラ)対策義務化!企業に求められる雇用管理上の措置

社会問題として度々メディアで取り上げられる「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)」への対策が、ついに法律によって義務化されます。2026年10月1日に施行される「改正労働施策総合推進法」により、企業は労働者を顧客等からの著しい迷惑行為から守るための具体的な措置を講じなければならなくなります。

これまで、顧客からの理不尽な要求や暴言は、現場の従業員個人の忍耐や接客スキルに委ねられる傾向がありました。しかし、労働環境の悪化や精神疾患の発症、それに伴う離職が深刻化する中、国はカスハラを「放置してはならない労働問題」として明確に位置付けました。

今回の法改正では、労働者を1人でも雇用するすべての事業主が対象となります。パワハラ防止法が施行された際にあったような中小企業向けの経過措置(猶予期間)は今回は設けられておらず、2026年10月1日より対応が必須となります。本コラムでは、社会保険労務士の視点から、法改正の全体像、企業規模にかかわらず求められる具体的な雇用管理上の措置や実務における判断基準に至るまで、実務に役立つ様に解説いたします。

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 1. カスハラ対策義務化の全体像と法改正の背景

今回の法改正は、職場におけるハラスメント対策を強化する一連の動きの集大成とも言えます。厚生労働省の調査によると、過去3年間に勤務先でカスハラを一度以上経験した労働者の割合は15.0%に上ります。被害を受けた労働者の多くが不安を感じ、仕事への意欲を失っている実態が浮き彫りになっており、企業にとってカスハラ対策は人材定着のための重要課題となっています。

今回の法改正において、中小企業が特に留意すべき点は以下の通りです。

法改正の重要ポイント詳細な内容と中小企業への影響
施行時期と適用範囲2026年10月1日より施行されます。労働者を1人でも雇用するすべての事業主が対象であり、企業規模、業種、法人形態(株式会社、医療法人、個人事業主など)による適用除外はありません。
中小企業への猶予措置パワーハラスメント防止法が施行された際に設けられていたような、中小企業に対する猶予期間は設定されていません。2026年10月1日の時点で、大企業と同じ水準の対策を完了している必要があります。
法的性質とリスク努力義務から「完全なる義務(雇用管理上の措置義務)」へと引き上げられました。対策を怠り放置した場合、行政指導の対象となるほか、後述する「安全配慮義務違反」として民事上の損害賠償請求を受けるリスクが高まります。

 2. 厚生労働省の指針が定める「カスハラの定義」

実務において最も難航するのが、「正当なクレーム」と「カスハラ」の境界線の見極めです。顧客が不満を表明している事実だけで直ちにカスハラに該当するわけではありません。厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)では、以下の3つの要素をすべて満たすものを職場におけるカスハラとして定義しています。

カスハラを構成する3つの要件実務上の判断基準
顧客等の言動であることここでいう「顧客等」の範囲は非常に広く設定されています。商品を購入した消費者やサービスの利用者だけでなく、潜在的な顧客、今後取引する可能性のある者、施設利用者の家族、企業間取引における交渉担当者なども対象に含まれます。
社会通念上許容される範囲を超えたもの要求の内容自体は妥当(例:不良品の交換要求など)であっても、その要求を実現するための「手段や態様」が行き過ぎている場合が該当します。また、要求内容そのものが不当(例:商品と無関係な金銭の要求など)である場合も含まれます。
労働者の就業環境が害されるもの顧客等の言動により、労働者が身体的または精神的な苦痛を受け、能力の発揮に重大な悪影響が生じる状態を指します。判断基準は「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の平均的な労働者がどう感じるか」という視点に置かれます。

厚生労働省が示すカスハラの代表的な類型

現場の従業員が判断に迷わないよう、企業はあらかじめ「どのような行為がカスハラに該当するのか」を具体的に分類しておくことが推奨されます。

厚生労働省のマニュアルに基づく代表的な9つの類型は以下の通りです。

ハラスメントの類型現場で想定される具体的な行為の例
時間拘束型業務時間外に及ぶ長時間の電話、対応が完了しているにもかかわらず店舗に居座り続ける行為(不退去)
リピート型合理的な理由がないまま、同じ内容のクレームや要求を執拗に繰り返し、従業員の業務を妨害する行為
暴言型大声での怒鳴りつけ、従業員の人格を否定する言葉、「バカ」「辞めちまえ」などの侮辱的発言
暴力型殴る、蹴る、物を投げつける、胸ぐらをつかむなどの物理的な攻撃(直ちに犯罪に該当し得る行為)
威嚇・脅迫型「SNSで晒すぞ」「ただじゃおかないぞ」「殺すぞ」など、従業員に恐怖心を抱かせる脅し
権威型(過大な要求)「誠意を見せろ」と土下座を強要する、商品価格を著しく超える不当な損害賠償を要求する、担当者の解雇を求める行為
店舗外拘束型正当な理由なく、従業員を顧客の自宅や関係のない喫茶店などに呼び出し、不当に拘束する行為
SNS・ネット誹謗中傷型インターネット上の掲示板や口コミサイトに、従業員の実名や顔写真を無断で公開し、名誉を毀損する行為
セクシュアルハラスメント型従業員に対する身体への不必要な接触、卑猥な発言、つきまといなどの性的な嫌がらせ

要求内容自体に正当性があったとしても、上記のような手段が用いられた段階で通常のクレーム対応から「カスハラ対応」へと切り替える必要があります。この基準を社内で統一することが、対策の第一歩となります。

 3. 企業が必ず講ずべき「雇用管理上の措置」とは

2026年10月以降、企業は法律に基づき、以下の「雇用管理上講ずべき措置」を実施しなければなりません。厚生労働省の指針では、大きく分けて5つの柱(細分化すると10項目)が示されています。

自社の対応状況を確認するためのチェックリストとして、以下の表をご活用ください。

措置の柱(義務化項目)企業に求められる具体的な対応内容実務への落とし込み方(例)
事業主の方針の明確化と周知・啓発カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護するという基本方針を明確にし、労働者に周知すること。また、どのような言動がカスハラに該当するかを定義し周知すること経営トップ名義での「カスハラに対する基本方針」の社内掲示、およびホームページ等での外部公開。就業規則への明記。
相談に応じ、適切に対応するための体制整備労働者が被害を受けた際、または「カスハラかもしれない」と悩んだ際に、あらかじめ定められた窓口へ相談できる体制を整備すること相談窓口担当者の指名、担当者向け対応マニュアルの作成、および「微妙なケースでも相談してよい」というルールの全社通達
事後の迅速かつ適切な対応相談があった際、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者への配慮のための措置を行うとともに、再発防止に向けた措置を講ずること複数名での対応ルールの徹底、防犯カメラや通話録音システムの導入による証拠保全、産業医等の専門家によるメンタルケアの実施
特に悪質な事案への対処方針の策定極めて悪質な要求に対する対処方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、その対処を行える体制を整備すること警察や弁護士への相談フローの構築。現場の判断で「これ以上の対応はお断りします」と通話を切断、または退店を求める基準の設定
プライバシー保護と不利益取扱いの禁止相談者や事実確認に協力した者のプライバシーを保護し、相談したこと等を理由とする解雇や人事評価の低下などの不利益な取扱いを禁止し、労働者に周知すること就業規則における不利益取扱いの禁止規定の新設、相談窓口担当者に対する守秘義務教育の徹底

さらに、上記に加えて「他の事業主から協力要請があった場合の対応(例えば、自社の従業員が派遣先でカスハラを受けた場合の連携など)」も求められます。これらの措置は、企業の規模にかかわらず「必ず講じなければならない義務」として扱われます。

4. 対策の遅延が招く経営リスクと安全配慮義務

「クレーム対応は接客業の宿命である」「対策に回す人員や予算の余裕がない」として対策を先送りすることは、企業にとって大きな法的・経営的リスクを伴います。

(1)安全配慮義務違反と民事上の損害賠償リスク

労働契約法第5条において、企業は「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」という「安全配慮義務」を負っています。

カスハラ被害を従業員からの報告等で把握できたにもかかわらず、会社が適切な措置(顧客への警告、担当者の交代、警察への通報など)を講じず、その結果として従業員が適応障害やうつ病などの精神疾患を発症した場合、企業はこの安全配慮義務に違反したとみなされます。過去の裁判例(例:コールセンターにおけるカスハラ対応の不備に関する事案など)においても、企業が労働者を保護するための体制を整えていなかったことに対して、不法行為責任や債務不履行責任が問われ、多額の損害賠償が命じられるケースが増加しています。

(2)レピュテーションリスクと採用への悪影響

法的な制裁のみならず、企業ブランドへのダメージも計り知れません。現代はSNSや転職口コミサイトを通じて、企業の内部事情が容易に可視化される時代です。

企業が直面する二次的リスクリスクがもたらす具体的な悪影響
採用・人材確保への影響「従業員を守ってくれない会社」という口コミが拡散されることで、新規求人の応募者数が減少し、優秀な人材から敬遠され、内定辞退率が上昇する可能性があります
既存従業員の離職連鎖会社に対する不信感が高まり、モチベーションが低下します。一人がメンタル不調で休職すると、残された従業員にクレーム対応の負担が集中し、連鎖的な離職を引き起こします
ブランドイメージの失墜現場でのトラブルがネット上で切り取られて拡散されることで、顧客や取引先からの信頼が失墜し、結果として売上の減少に繋がります

人手不足が事業継続の最大の課題となっている昨今、カスハラ対策は単なる福利厚生の一環ではなく、企業を存続させるための防衛策(リスクマネジメント)そのものです。

5. 外国人労働者をカスハラから守る体制構築

国内の労働力不足を補うため、飲食、宿泊、介護、建設などの多様な業種で外国人労働者が不可欠な存在となっています。しかし、それに伴い「外国人労働者に対するカスタマーハラスメント」という新たな労働問題が顕在化しています。

外国人労働者が直面する特有のカスハラリスク

外国人労働者は、言葉の壁や日本独特の過剰なサービス文化の違いから、顧客の要求を正確に汲み取れず、ミスコミュニケーションを発生させてしまうことがあります。問題は、そこから生じる顧客の怒りが、単なるサービスへの不満を逸脱し、国籍や人種を理由とした差別的な暴言(「日本語が分からないなら国へ帰れ」「外国人を雇うな」等)へと発展しやすい点にあります。

このような言動は、労働環境を害するカスハラであると同時に、深刻な人権侵害に該当します。企業は、日本人労働者に対する以上の細やかな配慮と、差別に対する毅然とした介入体制を構築しなければなりません。

外国人労働者向けの追加的な雇用管理措置実務上の運用方法と効果
多言語マニュアルの整備と教育トラブル発生時の「助けの呼び方」や、顧客に対する「対応をお断りする定型フレーズ」を母国語で確認できるよう整備します。これにより、パニックによる対応の遅れを防ぎます
差別的言動に対する会社の即時介入ルール国籍や言語に関する差別的な発言があった場合、本人の接客スキルに関わらず、直ちに日本人管理者等が対応を代わり、必要に応じてサービス提供を中止するルールを定めます
孤立を防止するフォロー体制言葉の微妙なニュアンスの誤解からクレームが拡大しないよう、常にサポートに入れる日本人スタッフを配置し、心理的安全性を確保します

 6. 実効性を高める「就業規則」と「対応マニュアル」の策定

法律の要件を満たし、かつ現場で従業員を確実に守る仕組みを作るためには、「就業規則の改定」と「実務に即したマニュアルの整備」が不可欠です。

 (1)就業規則への規定例と法的バックアップ

就業規則は会社の憲法とも言われ、顧客に対して「当社の規定に基づき、これ以上の対応はお断りします」と宣言するための重要な法的根拠となります。2026年10月の施行に向けて、以下の内容を網羅した「外部からのハラスメントに対する措置」という項目を新設する必要があります。

就業規則に盛り込むべき事項規定の意図と効果
カスハラの定義と禁止行為の明記どのような行為(暴言、威嚇、長時間の拘束など)をカスハラとみなすかを列挙し、対象を明確にします
事後の措置規定(対応の打ち切り等)カスハラに該当すると判断した場合、会社としてサービスの提供を中止し、必要に応じて警察への通報や法的措置をとる旨を記載し、会社が防波堤となることを宣言します
従業員の責務(単独行動の禁止)現場の判断で土下座をしたり、法外な要求に応じたりすることを禁止し、必ず会社(窓口・上司)へ報告する義務を定めます
不利益取扱いの禁止会社の方針に従って電話を切ったことや、被害を相談したことを理由に、人事評価を下げたり懲戒処分を行ったりしないことを明記します

 (2)現場で機能する実務マニュアルと証拠保全

「お客様の気持ちに寄り添う」といった抽象的な理念だけが書かれたマニュアルでは、悪質なクレームに対処できません。「この要求が出たら上司に代わる」「〇分以上同じ主張が続いたら電話を切る」といった具体的な行動基準(フローチャート)を定めることが求められます。

また、言った言わないのトラブルを防ぎ、従業員を守るためには客観的な記録が不可欠です。全通話の自動録音システムの導入や、店舗への防犯カメラの設置は、カスハラに対する極めて有効な抑止力となります。録音を行う際は、あらかじめ「サービス向上のため録音させていただきます」とアナウンスを入れることで、個人情報保護法等の法的要請もクリアしつつ、相手の感情をクールダウンさせる効果が期待できます。

 7.従業員の笑顔と企業の利益を守るための未来投資

「お客様は神様」という日本独自の過剰なホスピタリティ文化は、長らく多くの労働者に自己犠牲を強いてきました。2026年10月からの労働施策総合推進法の改正に基づくカスハラ対策の義務化は、こうした古い価値観から脱却し、企業が主体となって「働く人の尊厳」を守るための歴史的な転換点となります。

カスハラ対策を怠ることは、安全配慮義務違反や甚大なレピュテーションリスクを招き、人材流出によって事業継続そのものを困難にしかねません。一方で、会社が明確な方針を掲げ、毅然とした態度で悪質な要求から現場の従業員を守る姿勢を示すことは、「この会社は自分たちを大切にしてくれる」という強い信頼感を生み出します。従業員の心理的安全性が担保されて初めて、真の意味での質の高い顧客サービスが提供可能となり、結果として企業の持続的な成長と利益に還元されるのです。

法改正の施行日は2026年10月1日ですが、組織の文化を変え、新しい就業規則やマニュアルを現場に浸透させるためには、一朝一夕にはいかない準備期間が必要です。

対策は決して単なる「守りのコスト」ではありません。国籍を問わずすべての労働者が安心して働ける環境を整備することは、企業の健全な未来を築くための「不可欠な投資」です。法改正への対応や、実務に即した就業規則・対応マニュアルの整備に迷われている人事担当者様や経営者様は、ぜひ社労士法人第一綜合事務所にご相談いただき、確かな一歩を踏み出しましょう。

この記事の監修者

社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛

  • 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
  • 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)

東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。

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