「パートや契約社員の賞与や手当が正社員と差があるけれど、本当に大丈夫だろうか?」
手当や基本給の管理を行ってきた経営者様や人事担当者様にとって、大きな制度改正の時期が迫っています。
2026年10月1日より、パートタイム・有期雇用労働者に関するルール(雇用管理上の措置や同一労働同一賃金ガイドライン等)が改正されます。
今回の改正では、雇い入れ時の労働条件明示事項の追加や、手当・休暇等に関するガイドラインの見直し、待遇差に関する説明方法の厳格化など、企業に求められる対応がより具体的かつ厳しくなります。
本コラムでは、専門家の視点から2026年10月改正の3つの重要ポイントと、企業が今すぐ確認すべき実務チェックリスト、適切な賃金制度の構築手順、そして外国人労働者や外国人経営者特有のの注意点に至るまで、徹底的に解説します。
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目次
1. 2026年10月施行!パート・有期雇用ルール改正の背景と3つの重要ポイント
「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)」に基づき推進されてきた同一労働同一賃金ですが、2026年10月1日施行の改正により、企業は新たな対応を義務付けられます。
厚生労働省が示す2026年10月改正の柱は、主に以下の3点です。
| 改正項目 | 2026年10月からの改正内容 | 企業に求められる実務対応 |
|---|---|---|
| ① 労働条件明示の追加 | 雇い入れ・更新時に説明請求権の明示を義務化 | 労働条件通知書のフォーマット改定 |
| ②同一労働同一賃金ガイドラインの改正 | 各種手当・特別休暇の基準追加と厳格化 | 就業規則・各種手当・休暇規定の見直し |
| ③ 雇用管理措置の強化 | 説明方法の指定、過半数代表ルールの厳格化等 | 書面整備、過半数代表選出ルールの見直し |
ポイント①:雇い入れ時・更新時の「説明請求権」明示義務化
従来、パートや有期雇用社員の雇い入れ(契約更新含む)時には、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」の4項目を書面等で明示することが義務付けられていました。 2026年10月以降はこれらに加え、新たに「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」を書面交付等で明示することが義務化されます。これにより、労働者自身が「会社に正社員との待遇差の理由を聞く権利がある」ことを明確に認識するようになります。
ポイント②:同一労働同一賃金ガイドラインの見直し(各種手当・特別休暇の追加)
裁判例の蓄積を踏まえ、「同一労働同一賃金ガイドライン」の記載が大幅に充実・追加されました。これまで「正社員のみ」に限定されがちであった手当や休暇について、以下のような判断基準が明記されています。
- 【新規追加】無事故手当: 正社員と業務内容が同一の非正規社員には、同一の無事故手当を支給する
- 【新規追加】家族手当: 契約更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる非正規社員には、正社員と同一の家族手当を支給する
- 【新規追加】住宅手当: 転居を伴う配置の変更がある場合、正社員と同一の住宅手当を支給する
- 【新規追加】夏季冬季休暇: 非正規社員にも正社員と同一の夏季冬季休暇を付与する
- 【新規追加】褒賞: 一定期間勤続した労働者に付与する褒賞について、同一期間勤続した非正規社員に同一の褒賞を付与する
- 病気休職・病気休暇: 継続勤務が見込まれる非正規社員に対しても、正社員と同一の給与保障期間を設ける
ここでいう「非正規社員」はパートタイム、有期雇用、派遣労働で働く者が該当します。
ポイント③:雇用管理上の措置強化(説明方法の指定・過半数代表ルールの厳格化)
待遇差に関する説明を求められた際の説明方法が指定され、単に口頭で説明するだけでなく「資料を活用し口頭で説明する(資料交付が望ましい)」または「説明事項を全て記載した分かりやすい資料を交付する」ことが求められます。また、意見聴取を行う「パートタイム・有期雇用労働者の過半数代表者(パ有過半数代表)」について、管理職を除外することや、会社側の指名ではなく民主的な投票・挙手等で選出すること、不利益取扱いの禁止義務化(「配慮するものとする」から義務へ格上げ)、事務スペース提供等の配慮義務が新設・厳格化されています。
2. 企業が今すぐ確認すべき手当・待遇のチェックリスト
単に「正社員とパート」という雇用形態の名称の違いだけで手当や休暇の有無を決める運用は、2026年10月以降、法的に危うくなります。手当一つひとつの支給目的を改めて整理し、実効性のある見直しを行う必要があります。
主要な手当・待遇について、企業が2026年10月に向けて自社の運用を点検すべき実務チェックリストは以下の通りです。
同一労働同一賃金の運用チェックリスト
- 通勤手当: パート・アルバイト・契約社員に対して、業務上必要な移動費や通勤費を全額(または正社員と同等の実費上限額で)支給しているか
- 家族手当: 継続的な勤務が見込まれるパート・有期社員に対して、正社員と同一の手当を支給する運用になっているか
- 住宅手当: 転居を伴う配置の変更(転勤など)が正社員と同等にあるパート・有期社員に対し、正社員と同一の住宅手当を支給しているか
- 精皆勤手当・特殊作業手当: 出勤奨励や危険作業の対価として支給される手当について、同様の勤務条件・作業に従事する非正規社員にも同一基準で支給しているか
- 夏季冬季休暇・各種特別休暇: 有給の夏季・冬季休暇について、正社員だけでなくパート・有期社員にも同様に付与する規定になっているか
- 福利厚生施設・健康診断: 社員食堂・売店・休憩室の利用、各種定期健康診断の実施において、雇用形態による不合理な差別を設けていないか
特に、今回のガイドライン改正で明記された「家族手当」「住宅手当」「夏季冬季休暇」について正社員のみに付与している企業は、2026年10月までに就業規則・賃金規程の改定を行うか、差をつけている合理的な理由(職務内容や転勤の有無の違いなど)を明確に論理立てて説明できる状態にしておく必要があります。
3. 待遇差の説明義務(2026年10月厳格化)と適切な「基本給・給与体系」の構築
(1)説明方法の指定と意向聴取・情報公表の努力義務化
パートタイム・有期雇用労働法第14条では、パート・有期社員から求められた際、事業主が待遇差の内容や理由を説明することを義務付けています。2026年10月の改正により、雇用契約時に「会社に説明を求めることができる」という権利自体を書面等で明示することが義務化されます。
事業主は、以下のいずれかの方法で説明を行わなければなりません。
- 資料を活用し、口頭により説明する方法(口頭説明に使用した資料等を交付することが望ましい)
- 説明すべき事項を全て記載した短時間・有期雇用労働者が容易に理解できる内容の資料を交付する等の方法
資料の交付が困難な場合でも、事後に求めがあった際には当該資料を閲覧させる等の対応に努める必要があります。また、説明の求めがない場合であっても、契約更新時などに待遇の相違内容や説明請求権について容易に理解できる資料をあらかじめ配布・周知することが望ましいとされています。
さらに、事業主は話し合いの機会やアンケートの実施によりパート・有期社員の意見を聴く機会を工夫することや、正社員転換制度の内容や転換実績等の情報をウェブサイト等で定期的に公表することなどが推奨されます。
(2)「正社員人材確保論」の否定と不利益変更によらない改善原則
今回のガイドライン改正において非常に重要なのが、いわゆる「正社員人材確保論」の否定と「労働条件不利益変更」に対する指針の明確化です。
- 「正社員人材確保論」の制限: 待遇の相違がある場合、「将来の正社員としての職務を遂行し得る人材の確保・定着を図るため」という目的があったとしても、その目的があることのみをもって直ちに待遇差が不合理でないと認められるものではないことが明記されました。 抽象的な「人材確保」を言い訳にして各種手当や賞与の不支給を正当化することは認められません。
- 不利益変更の禁止と待遇改善の原則: 事業主が正社員とパート・有期社員との間の格差を解消しようとする場合、正社員の労働条件を不利益に変更するのではなく、パート・有期社員の労働条件の改善(引き上げ)によって解消を図ることが求められる旨が明確化されました。
したがって、不合理的待遇差を理由に「正社員の手当を廃止して揃える」といった安易な引き下げ対応は労使トラブルの要因となるため、職務評価に基づきパート社員の賃金・手当を引き上げる形での再構築が基本となります。
4. 外国人労働者・外国人経営者における注意点
近年、急速に増加している外国人労働者を雇用している企業、あるいは外国人経営者が「経営・管理」の在留資格を取得して事業を運営している企業においては、2026年10月改正への対応遅れが単なる労働法上のトラブルにとどまらず、企業の存続や在留資格そのものを脅かす重大なリスクへと発展します。
(1)在留資格への波及リスクと「日本人と同等以上」の報酬原則
外国人労働者(「技術・人文知識・国際業務」や「特定技能」など)の就労ビザ申請や更新の審査において、出入国在留管理庁(入管)が最も厳しく審査する基準の一つが「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」(同等報酬原則)です。
- 外国人従業員(就労ビザ所持者)への影響:
外国人社員であることや有期雇用であることを理由に、同様の業務を行う日本人正社員よりも低い基本給を設定したり、各種手当や夏季冬季休暇を不支給にしたりしている場合、同一労働同一賃金違反となるだけでなく、入管法上の「同等報酬要件」を満たさなくなります。その結果、企業が労基署から是正勧告を受けたり、入管から受入機関としての適格性を否定されたりすることで、犯罪の被害者側であるはずの外国人従業員本人のビザ更新申請が不許可となるリスクが発生する可能性があります。
- 外国人経営者(「経営・管理」ビザ所持者)自身への在留リスク:
外国人経営者自身が経営する会社において、日本人と外国人、あるいは正規社員と非正規社員の間で不合理な差のある取扱いが行われ、是正指導や未払い賃金トラブルが発覚した場合、事業の適正性や経営者としてのコンプライアンス遵守姿勢が疑われます。経営者自身の「経営・管理」ビザの更新審査において不利益を被り、日本での事業継続資格そのものを喪失(帰国を余儀なくされる)という結果を招く可能性があります。
(2)実務で講じるべき多言語対応と予防法務
2026年10月以降、雇い入れ時に「説明を求めることができる旨」が明示されるため、外国人従業員から待遇差について説明を求められるケースが増加することが予想されます。言語や文化の壁によって誤解が生じ、労働局への通報や労使トラブルに発展するケースを防ぐ対策が必要です。
- 就業規則・賃金規定・労働条件通知書の多言語化:
雇い入れ時に交付する労働条件通知書(説明請求権の明示を含む)や就業規則の要約について、本人が十分に理解できる言語で作成・周知しましょう。 - 待遇差に関する説明書面(ガイドライン対応)の事前作成:
正社員との職務内容や配置変更の範囲の違いについて、あらかじめ客観的な説明書面(理由書)を多言語で整備し、本人に説明したうえで確認・受領印を取得しておきましょう。
こうした予防法務的な取り組みを継続しておくことが、万が一労基署や入管による調査が入った際にも「会社として法令に基づき適正な雇用管理を行っている」という強力な証明(証拠)となります。
5. まとめ:2026年10月施行に向けた労務環境の再構築を行いましょう
2026年10月からのパート・有期雇用ルールの改正は、単なる形式的な手続きの追加ではなく、「実効性のある待遇改善と公正な評価体系の確立」を企業に求めています。
「雇い入れ時の労働条件通知書に新設される明示項目が入っているか」「家族手当や住宅手当、特別休暇などの見直しができているか」「説明を求められた際の書面が準備されているか」を今一度点検することが求められます。 具体的には、2026年10月に向けて以下のステップで労務体制の見直しを進めることが推奨されます。
- 労働条件通知書フォーマットの改定(「説明を求めることができる旨」の追記)
- 雇用形態ごとの各種手当・特別休暇(夏季・冬季等)の支給基準の点検と規程改定
- 待遇差の説明用書面フォーマットの作成と説明体制の整備
- 職務評価に基づく賃金規程・人事評価制度の見直しと可視化
- 外国人社員への同等報酬要件の点検と多言語による説明・予防法務対応
制度の見直しや手当の整理には専門的な法的判断が不可欠です。2026年10月の施行直前に慌てないよう、早めに労働法の専門家である社会保険労務士へご相談いただき、自社の賃金体系や就業規則のリーガルチェックを行うことで、是正指導や過重なリスクを回避した適正な労務環境を構築しましょう。
この記事の監修者
社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛
- 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
- 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)
東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。