
人材紹介ビジネスを始めるにあたって避けて通れないのが,「有料職業紹介事業の許可取得」です。厚生労働省からの許可を得るためには,人的要件や事務所要件に加え,「500万円以上の自己資産」という財産的基礎要件が求められます。
本コラムでは,社会保険労務士の視点から,有料職業紹介の許可要件の中でも特に重要な「500万円の資産要件」の意味と確認方法,そして実際にクリアするための具体的な手段を,社労士がわかりやすく解説します。
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目次
1.有料職業紹介事業の許可取得における500万円の要件とは?
1-1.500万円は資産要件!その定義と範囲
有料職業紹介事業の許可を取得するためには,「資産が500万円以上あること」が法令で定められており,これは,事業を継続的・安定的に運営するための経済的基盤が整っているかを判断するための要件(指標)です。
この資産要件は,「初期に用意すればOK」な一時的な資金ではなく,事業開始後も継続して保持することが求められます。つまり,単なる“見せ金”では認められず,経営の安定性,求職者や求人企業への責任,そして予期せぬ事態への備えとしての役割があります。
資産に該当する主なもの
現金および預貯金(普通預金・定期預金など)
- 普通預金・定期預金などの通帳残高,または残高証明書で確認します。
- 原則として「金額=評価額」となり,審査でも最も評価されやすい資産です。
有価証券(上場株式・公社債など)
- 上場株式等は証券会社の残高報告書で,直近の時価ベースで評価されます。
- 値動きが激しいため,申請直前に大きく評価額が下がるリスクがあります。
- 非上場株は換金性が乏しいため基本的に評価対象外となります。
換金性の高い不動産(評価額により変動あり)
- 一般的には固定資産税評価証明書の記載額で評価されます。
ただし換金性や流動性が低いと判断される場合,一部しか評価されないこともあるため注意が必要です。
上記のように,資産の評価方法には種類ごとに差があり,申請時には最新の評価額を証明する書類を提出する必要があります。
なお,資産からは負債(借入金など)を差し引いた「純資産」が500万円以上であることが必要です。たとえ現金があっても,同額以上の借入金があれば要件を満たしません。借入による資金は負債扱いなので,資産総額から控除される点も注意が必要です。
また,許可取得のためには「現金・預金が150万円以上あること」も別途求められています。これは,初期運転資金としての最低限の現金確保を意味し,純資産500万円とは別にチェックされる点に注意が必要です。
2.500万円を準備する方法
有料職業紹介事業の許可取得において,資産500万円以上を準備するには,自己資金の用意に加え,出資や融資など複数の選択肢があります。ここでは主な3つの資金調達手段について,その特徴とメリット・デメリットを整理します。
2-1.出資(エクイティファイナンス)
出資とは,第三者に株式を発行して資金を調達する方法です。出資者は会社のオーナーの一部となり,企業の成長や配当によるリターンが期待できます。
主な手段
- ベンチャーキャピタル(VC)からの出資
- エンジェル投資家からの出資
- 第三者割当増資
- 株式公開(IPO)※大企業向け
メリット
- 返済不要である
借入ではないため,元本や利息の返済義務がありません。 - 信用力が低くても調達可能となる
スタートアップなど,成長性重視の評価を受けやすいです。 - キャッシュフローへの負担が軽い
利息支払いが不要で資金繰りが安定します。
デメリット
- 株式の希薄化を招く恐れがある
既存株主の持株比率が低下する可能性が考えられます。 - 経営への関与
出資者から経営への意見・要望が入る可能性があります。 - 利益の分配義務
利益が出た場合,配当として投資もとへ還元が必要になります。
500万円の資産要件を満たすには,単なる自己資金の貯金だけでなく,どの手段を選ぶかが大切です。創業初期で信用力が弱い場合は出資を,安定的な返済計画が立てられる場合は融資を,さらに財務体質を強化したい場合にはハイブリッド型も視野に入れると良いでしょう。
3.許可申請の流れと必要書類
有料職業紹介事業の許可を取得するには,厚生労働省(都道府県労働局)の管轄のもと,一定の手続きを順を追って進めていく必要があります。ここでは,申請から許可取得までの流れと必要書類について整理します。
3-1.事前相談
まずは,申請予定の事業所所在地を管轄する労働局へ事前相談を行いましょう。
管轄の労働局は*こちらのホームページ*で確認できます。
この事前相談で,計画が許可要件に合致しているか,申請に必要な書類の注意点などについて,具体的なアドバイスを受けることができます。
事前相談は必須ではありませんが,円滑に申請を進めるためにも利用されることをおすすめします。
3-2.職業紹介責任者の選任と講習
有料職業紹介事業許可申請をするにあたって,事前に「職業紹介責任者」を選任することが必要です。
選任人数の要件
紹介業務に従事する「常時雇用者50人ごとに1名以上」職業紹介責任者を選任することが義務づけられています。
例:紹介部門のスタッフが1〜50人 → 1名 51〜100人 → 2名。
講習受講の要件
選任する人物は,厚生労働大臣指定の「職業紹介責任者講習」を受講済みであることが必要です。
※修了証の写しを申請書に添付し,受講済みであることを証明します。
また,講習は1日で修了し,オンライン講習も実施されています。許可申請の前までに必ず受講を完了しておくことが必要となります。
3-3.許可申請書の作成・提出
申請書類は,事業開始予定の概ね3ヶ月前までに,管轄の都道府県労働局へ提出します。以下が主な提出書類です。
基本書類
- 有料職業紹介事業許可申請書
- 有料職業紹介事業計画書
※各都道府県の労働局のホームページから様式をダウンロードすることが可能です。
例:東京労働局
法人・人に関する書類
- 定款(最新のもの)
- 法人登記事項証明書
- 代表者・役員・職業紹介責任者の履歴書
- 住民票の写し
- 職業紹介責任者講習受講証明書(責任者のみ)
財務に関する書類(資産要件の裏付けとして)
- 貸借対照表・損益計算書(直近年度分)
- 株主資本等変動計算書(直近年度分)
- 法人税の納税証明書その1,その2(直近年度分)
- 確定申告書の写し
管理体制に関する書類
- 個人情報の適正管理に関する規程
- 秘密保持に関する規程
- 業務運営規程(求人・求職管理の方法など)
事務所に関する書類
- 建物の登記事項証明書(所有の場合)
- 賃貸借契約書 or 使用貸借契約書(借りている場合)
- 事務所のレイアウト図(面談スペース,書庫などを明示)
手数料に関する書類(必要に応じて)
- 手数料届出書(紹介手数料を受け取る場合)
相手国に関する書類(海外に人を紹介する場合)
※外国の企業などに人材を紹介する場合は,次のような書類を用意する必要があります。
- 紹介先の国での労働関係の法律と,その日本語訳
- 紹介先の国で,外国人を紹介するようなビジネスをしても問題ないことを証明する書類と,その日本語訳
取次機関に関する書類(現地に協力会社などがある場合)
※海外に人材を紹介する際に,現地でのサポートをしてくれる会社(取次機関)を使う場合には,以下の書類も必要です。
- その取次機関と,自社の役割分担を記載した契約書や,事業の運営方法がわかる書類と,その日本語訳
- その国で,その取次機関が合法的に活動できることを証明する書類と,その日本語訳
- 取次機関に関する申告書(内容の説明書のようなもの)
3-4.審査と許可
書類提出後,審査には一般的に2〜3ヶ月程度かかります(各労働局の状況,時期によって変動する可能性があります)。審査の過程では,以下の対応が必要になることもあります。
- 書類の補正・追加提出
- 事業所の実地調査(面談スペースの有無や個人情報管理状況の確認)
- 電話や対面でのヒアリング
許可が下りると,毎月1日付で許可証が発行され,最短で申請の翌々月1日から事業を開始することが可能です。
4.許可取得後の注意点
有料職業紹介事業は,許可を取得すれば終わりではなく,許可後の運営からがスタートです。適法な事業運営を行うために,以下のポイントに十分注意しましょう。
ポイント①:法令遵守の徹底
有料職業紹介事業は,職業安定法や個人情報保護法など,複数の法律によって規制されています。とくに以下の法令は運営上の基本となります。
- 職業安定法(求人・求職の取扱い,手数料の明示など)
- 労働基準法(紹介先企業との連携における確認義務など)
- 個人情報保護法(求職者の情報管理)
法改正の情報にもアンテナを張り,常に最新の法令を確認しましょう。必要に応じて,専門家に相談することもおススメです。
ポイント②:求職者への誠実な対応
求職者と直接接する職業紹介業では,誠実で透明性のある対応が求められます。
- 募集条件や労働条件は,誤解のないよう正確に伝える
- 虚偽表示をしない,誇大広告を出さない
虚偽表示や誇大広告は違反すると行政処分などの対象になります。信頼を得る紹介業者として,一人ひとりの人生に寄り添う姿勢を忘れないように心がけましょう。
ポイント③:個人情報の厳格な管理
有料職業紹介では,履歴書・職歴・家族構成など機微な個人情報を日常的に取り扱います。これらの情報漏洩が発生した場合,行政処分だけでなく民事訴訟のリスクもあるため,厳重に管理を行いましょう。
- アクセス権限の制限,ログ管理の実施
- パスワード付きファイルの使用や暗号化の導入
- 退職者の情報管理・削除ルールの整備
管理規程を整備するだけでなく,実際に運用できていることも自社内で定期的に確認しましょう。
ポイント④:毎年の事業報告書提出
有料職業紹介事業を継続するには,毎年「事業報告書」の提出が義務づけられています。
対象期間:毎年4月1日~翌年3月31日
提出期限:翌年度の4月末日まで
提出先 :所轄の都道府県労働局(申請時と同じ窓口)
上記を怠ると,行政指導や更新許可に影響が出る可能性もあります。うっかり失念しないようにスケジュール管理をしっかりと行いましょう。
その他にも,健全な運営体制をたもつため,資産要件(500万円の純資産+150万円の現預金)は,許可取得時だけでなく,運営中も維持されていることが求められます。有料職業紹介事業は許可取得後もさまざまな管理・報告・法令遵守を意識し,運営しましょう。
5.よくある質問
有料職業紹介事業許可申請に関する,よくある質問とその回答をまとめました。
Q:500万円の資産は,事業開始時にのみ必要ですか?
A:いいえ,事業を継続する上でも資産要件を維持する必要があります。
有料職業紹介事業の許可取得時には,「資産500万円以上」が求められますが,それは一時的な基準ではなく,継続的に満たす必要がある基準です。特に以下の点に注意が必要です。
- 許可更新時(5年ごと)には350万円以上の資産要件が課されます。
- 大きな赤字が出て債務超過となった場合,許可の取消対象になることもあります。
資産状況は毎年の事業報告書などでチェックされますので,「見せ金」ではなく実態としての財務基盤が求められます。
Q:資産要件をクリアしているかどうかは,どのように確認できますか?
A:決算書(貸借対照表)や直近の試算表を用いて確認します。
具体的には,以下の書類をもとに資産要件をチェックします。
- 貸借対照表:純資産(資産-負債)が500万円以上か
- 試算表(最近の月次決算):許可申請直前に準備できる場合は,こちらを使って証明することも可能です
- 資産の内訳:現金・預金・有価証券・換金性資産などの合計額も併せて確認します
不安な場合は,税理士等の専門家に決算書を見てもらい,要件を満たしているかを確認してもらうのが安心です。
Q:資産要件を満たしていない場合でも申請はできますか?
A:原則として,資産要件を満たしていない場合は申請できません。
資産要件(純資産500万円以上+現金・預金150万円以上)は,許可の前提条件です。
もし要件を満たしていない場合は,以下の手段を検討しましょう。
- 出資(第三者割当増資など)による自己資本の増強
- 金融機関からの融資で現金を確保(ただし借入は資産に含まれず,負債になります)
- ハイブリッドファイナンスを活用して,資本性を持つ資金を調達
本記事の「第2章」で詳しく解説していますので,そちらも参考にしてください。
Q:許可取得にかかる費用はどのくらいですか?
A:以下の法定費用がかかります。
項目 | 金額(目安) |
---|---|
登録免許税 | 90,000円(1事業所あたり) |
収入印紙代 | 50,000円(1事業所ごと) |
追加事業所の印紙代 | 18,000円(2拠点目以降/1拠点ごと) |
これらの納付にあたっては,登録免許税の納付書や印紙の貼付書類が必要となります。
納付書は,申請時に都道府県労働局で入手することができます。
なお,社労士などの専門家に申請を依頼する場合は,別途報酬が必要となるため,見積もりを事前に取り寄せ確認しましょう。
上記以外にも気になることがあれば,ぜひ社会保険労務士法人第一綜合事務所へご相談ください。初回のご相談は無料で承ります。
6.まとめ
本コラムでは,有料職業紹介事業の許可取得に必要な「500万円の資産要件」について,定義・内訳・評価方法から,資金の準備手段,申請の流れ,許可後の注意点までを総合的に解説してきました。
「500万円の資産」は単なる金額ではなく,事業の安定性・継続性を保証するための基盤です。求職者・求人企業の信頼を得る上でも,この資産要件は重要な意味を持ちます。
また,申請には多くの書類準備と実務的な対応が必要となり,許可取得後も法令遵守や事業報告など,適切な運営体制が求められます。
許可取得は「スタート地点」にすぎません。計画的な準備と持続可能な体制づくりが,安定した職業紹介ビジネスの成功につながります。
人材不足が続く今,有料職業紹介事業は社会的にもニーズの高い事業モデルです。本コラムが,貴社の新たな一歩を後押しし,紹介事業者としての成長につながれば幸いです。
この記事の監修者

社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛
- 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
- 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)
東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。