2026年4月1日より、自動車や自転車などの「交通用具」を利用して通勤する給与所得者に向けた通勤手当の非課税限度額が改正されます。
給与計算の実務において、通勤手当の「課税・非課税」の判定は所得税の計算に影響します。手当の支給額は社会保険料や労働保険料の算定基礎にも含まれるため、制度が変わる前に改正の内容と自社で対応すべき手順を正確に把握しておく必要があります。
このコラムでは、国税庁や厚生労働省が公表している一次情報に基づき、2026年4月施行の改正内容を解説します。また、同時期に施行される「子ども・子育て支援金」の徴収開始や「雇用保険料率の改定」など、給与計算担当者が注意すべきポイントをまとめています。
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目次
1. 2026年4月1日から適用される通勤手当の改正内容
今回の改正は、主に「マイカーや自転車などの交通用具」を使用して通勤している従業員が対象となります。
近年の燃料価格の高騰や、物価上昇といった社会情勢の変化を踏まえ、通勤にかかる実費負担を適切に反映させるために、所得税法上の非課税限度額が引き上げられることになりました。
今回の改正のポイント
- 適用開始:2026年4月1日以後に支払われるべき通勤手当から
- 対象者:自動車、バイク、自転車などの「交通用具」利用者
- 内容:片道65km以上の非課税限度額の引き上げ、および一定の要件を満たす駐車場等の料金相当額(月額上限5,000円)の非課税枠への加算
(1)改正の対象者と「対象外」となるケース
今回の限度額引き上げは、「交通用具の利用者」に限定されています。電車やバスなどの公共交通機関のみを利用している従業員の非課税限度額(最も経済的かつ合理的な経路に基づく実費、最高限度額は月額150,000円)については、今回の改正による変更はありません。
実務では、従業員ごとの通勤手段の申請状況を改めて確認し、マイカー通勤者や自転車通勤者を正しく抽出することが最初のステップとなります。
(2)適用時期と「過去分の遡及払い」の取扱い
新しい非課税限度額は、「2026年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」から適用されます。給与の締め日ではなく「支払われるべき日(支給日)」が基準となる点にご注意ください。 ただし実務上、注意が必要なケースがあります。
例えば、2026年3月以前の通勤手当の計算に誤りがあり、4月1日以後の給与で「過去の不足分(差額)」を追加支給するような場合です。このように、本来4月1日より前に支払われるべきだった過去分の差額については、実際の支払日が4月以降であっても改正後の新ルールは適用されず、改正前の古い基準で計算しなければなりません。
2. 距離区分別の非課税限度額の新旧比較表
国税庁から公表されている資料に基づく、交通用具利用者の片道の通勤距離に応じた1か月あたりの新たな非課税限度額は以下の通りです 。今回の改正では、片道65km以上の長距離通勤者に対する限度額が細分化され、引き上げられています 。
| 通勤距離の区分 | 改正前 | 改正後(2026年4月1日以後適用) |
|---|---|---|
| 片道2km未満 | (全額課税) | (全額課税) |
| 片道2km以上 10km未満 | 4,200 円 | 4,200 円 (同額) |
| 片道10km以上 15km未満 | 7,300 円 | 7,300 円 (同額) |
| 片道15km以上 25km未満 | 13,500 円 | 13,500 円 (同額) |
| 片道25km以上 35km未満 | 19,700 円 | 19,700 円 (同額) |
| 片道35km以上 45km未満 | 25,900 円 | 25,900 円 (同額) |
| 片道45km以上 55km未満 | 32,300 円 | 32,300 円 (同額) |
| 片道55km以上 65km未満 | 38,700 円 | 38,700 円(同額) |
| 片道65km以上 75km未満 | 38,700 円 | 45,700 円 |
| 片道75km以上 85km未満 | 38,700 円 | 52,700 円 |
| 片道85km以上 95km未満 | 38,700 円 | 59,600 円 |
| 片道95km以上 | 38,700 円 | 66,400 円 |
今回の改正によって65km以上の距離が10km刻みで4つの区分に分かれ、片道95km以上の場合は最大で「月額66,400円」まで非課税限度額が引き上げられています 。
なお、距離区分を判定する際に用いる距離は、地図上の直線距離ではなく、合理的な通勤ルートに基づいた「実際の経路に沿った片道距離」で判定するという原則に変更はありません。
3. 新設:駐車場等の料金相当額の加算(月額上限5,000円)
今回の改正におけるもう一つの変更点が、「一定の要件を満たす駐車場等を利用している場合における非課税限度額の加算」です 。
片道2km以上のマイカーや自転車等の通勤者で、駐車場や駐輪場の料金を負担している場合、前述の距離に応じた非課税枠に加えて、「1か月当たり上限5,000円」を新たな非課税枠として加算できるようになりました 。
(1)加算の対象となる駐車場の要件
国税庁のQ&Aに基づき、加算の対象となる駐車場・駐輪場の要件を整理すると以下のようになります。
- 対象となる場所: 勤務場所の周辺の駐車場、または、通勤のために利用する公共交通機関の駅、停留所、フェリー乗り場等の周辺にある駐車場が対象となります
- 対象外となる場所: 自宅付近の駐車場等の料金相当額は、非課税の対象にはなりません
- 交通用具の種類: 自動車用の駐車場だけでなく、通勤のために使用する自転車やバイクの駐輪場も「駐車場等」に含まれます
- 複数の利用: 複数の「一定の要件を満たす駐車場等」を利用している場合は、利用する駐車場等の料金の合計額に相当する金額(上限5,000円)の通勤手当が非課税となります
- 通勤距離の制約: 通勤距離が「片道2km未満」である人が駐車場等の料金を負担している場合は、駐車場等の料金相当額の通勤手当は非課税となりません
(2)会社が駐車場を契約している場合
会社が周辺の駐車場を従業員に代わって契約し、料金を負担している場合も、一定の要件を満たせば、その負担額(上限5,000円)を通勤手当として非課税限度額の計算に含めることができます。
(3)実務上の確認作業
駐車場等の料金相当額の加算を適用するためには、金額を計算する計算する根拠が必要です。国税庁は、駐車場等の料金が記載された契約書や領収書などの提示を受け、事実関係を確認することを求めています 。
給与担当者は、通勤届の申請フォーマットを見直し、駐車場・駐輪場の利用有無、所在地、月額料金、領収書等の添付欄を設けるなどの対応をご検討ください。
4. 給与担当者が押さえるべき具体的な計算シミュレーション
実際の給与計算において、新しい非課税限度額がどのように適用されるのか、いくつかの事例を用いてシミュレーションを行います。
ケース1:長距離のマイカー通勤(駐車場利用なし)
条件
片道通勤距離が70km。駐車場は会社の無料駐車場を利用
判定
「片道65km以上 75km未満」の区分に該当します
結論
新しい非課税限度額は「月額45,700円」となります。会社からの通勤手当支給額が45,700円以内であれば全額非課税となり、これを超える部分が所得税の課税対象となります。
ケース2:マイカー通勤と駐車場代加算(上限内の場合)
条件
- 片道通勤距離が50km
- 勤務先周辺の駐車場を利用し、月額4,400円の料金を自ら負担している
- 会社からは距離に応じた手当33,000円と駐車場代4,400円の合計37,400円が支給
判定
距離区分「片道45km以上 55km未満」の限度額は32,300円です。これに駐車場代相当額4,400円(上限5,000円の範囲内)を加算します。
非課税限度額: 32,300円 + 4,400円 = 36,700円
結論
支給額37,400円は非課税限度額36,700円を「700円」超過するため、超過した部分の700円が課税となります。
ケース3:マイカー通勤と駐車場代加算(上限を超える場合)
条件
- 片道通勤距離が50km
- 勤務先周辺の駐車場を利用し、月額8,000円の料金を自ら負担している
- 会社からは距離に応じた手当32,000円と駐車場代4,000円の合計36,000円が支給
判定
距離区分「片道45km以上 55km未満」の限度額は32,300円です。駐車場代は月額8,000円負担していますが、加算できるのは上限の5,000円までとなります。
非課税限度額 :32,300円 + 5,000円 = 37,300円
結論
支給額36,000円は非課税限度額37,300円を下回るため、支給される36,000円全額が非課税として扱われます。
ケース4:公共交通機関と交通用具を併用している場合
条件
自宅から駅までマイカーで片道5km通勤し、駅前の月極駐車場(月額6,000円)を利用、そこから電車(定期代月額20,000円)で会社まで通勤
判定
「公共交通機関の定期代」+「交通用具の距離区分限度額」+「駐車場代加算」の合計で判定します
非課税限度額 :電車定期代(20,000円)+マイカー距離限度額(4,200円)+駐車場代加算(上限の5,000円)= 合計29,200円
結論
合算した非課税限度額は29,200円となります。
なお、これらを合算した金額が、制度全体の非課税限度額の上限である「1か月当たり150,000円」を超えることはできません。
5. 実務上の注意点:税務(所得税)と社会保険の取扱いの違い
通勤手当の処理において、給与計算担当者が留意すべき点は「所得税法上の非課税」と「健康保険法・厚生年金保険法上の報酬」の違いです。
(1)所得税は「非課税」、社会保険料は「全額が報酬」
給与計算における通勤手当の扱いは以下の通り区別されます。
- 所得税(税務)
所得税法第9条に基づき、一定の限度額内の通勤手当は「非課税」として扱われます - 健康保険・厚生年金保険・雇用保険(社会保険・労働保険)
健康保険法第3条等において、報酬とは「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもの」と定義されています。
厚生労働省の資料でも、通勤手当は実費弁済的な性質があるものの「労働の対償」として扱われるため、社会保険料の計算対象となります
今回の税制改正により駐車場代の加算などで所得税の非課税枠が広がり手取りが増加したとしても、社会保険料の標準報酬月額や、雇用保険料の賃金総額の計算からは通勤手当を除外してはいけません。
(2)随時改定(月額変更届)の確認
今回の法改正を機に、自社の通勤手当の規定を見直し、新たに駐車場代の実費相当分を手当として上乗せ支給することにした企業においては確認が必要です。
通勤手当は、社会保険上の「固定的賃金」に該当します。この固定的賃金の支給額が変動し、継続した3か月間の平均報酬月額が、現在の標準報酬月額と比較して「2等級以上」の差が生じた場合、社会保険の「随時改定(月額変更届)」の手続きを行う必要があります。駐車場代の加算を新設した結果、標準報酬月額の等級が上がり、社会保険料が変動するケースが想定されます。
6. 2026年4月に対応すべき関連の法改正
2026年4月は通勤手当の税制改正以外にも、社会保険や雇用保険に関連する重要な法改正が複数施行されます。給与計算に直接影響する項目をまとめます。ぜひご確認ください。
(1)子ども・子育て支援金の徴収開始
政府の少子化対策の財源として、2026年4月分の保険料より「子ども・子育て支援金制度」が導入されます。
支援金は医療保険制度を通じて徴収されます。会社員が加入する被用者保険(協会けんぽ等)の場合、健康保険料と同様に企業と従業員が折半で負担します。
- 徴収開始時期: 2026年4月分の保険料から徴収が開始されます。実務上、「翌月徴収」を採用している企業では、2026年5月支給の給与から控除が始まります。
- 支援金の控除額: 2026年度の支援金率は全国一律0.23%と設定されています 。労使で折半するため、従業員本人の給与からは標準報酬月額(または標準賞与額)の「0.115%」が控除されます。
(2)雇用保険料率の改定
2026年度の雇用保険料率が改定されます。失業等給付等の保険料率が労働者負担・事業主負担ともに変更になります。
一般の事業における2026年4月1日からの雇用保険料率は以下の通りです。
- 一般の事業: 労働者負担 5.0/1,000、事業主負担 8.5/1,000(合計 13.5/1,000)
- 農林水産・清酒製造の事業: 労働者負担 6.0/1,000、事業主負担 9.5/1,000(合計 15.5/1,000)
- 建設の事業: 労働者負担 6.0/1,000、事業主負担 10.5/1,000(合計 16.5/1,000)
※給与計算における適用タイミングは、原則として「4月1日以降に支払われる給与・賞与」からとなります。
(3)在職老齢年金の支給停止基準額の引き上げ
働きながら老齢厚生年金を受給している高齢者に対する「在職老齢年金制度」について、2026年4月から支給停止基準額が引き上げられます。
これまで、基本月額(年金)と総報酬月額相当額(給与)の合計額が一定額を超えると年金の一部または全部が支給停止されていました。この基準額が、2026年4月より「月額65万円」に引き上げられます。
基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円以下の場合は、年金が全額支給されることになります。高齢従業員を雇用している企業は、この制度変更を踏まえた働き方の調整等に対応する必要があります。
7. 給与システムの設定変更に向けた社内チェックリスト
法改正に伴う給与計算システムへの反映を確実に行うため、以下のチェックリストをご活用ください。
| 実務対応チェック項目 | 確認の目的 |
|---|---|
| システムの通勤手当テーブル更新 | 2026年4月以降の計算に向けて、65km以上の長距離区分の追加や、駐車場代加算の設定が給与計算システムに反映されているか確認する |
| 対象従業員の抽出と非課税額の再計算 | 片道65km以上で通勤している従業員、および駐車場等を利用している従業員を抽出し、新たな非課税限度額を個別に算出する |
| 通勤手当支給申請書のフォーマット改訂 | 駐車場・駐輪場の利用有無、所在地、月額料金、証憑(領収書等)の添付欄を設けた新たな申請書フォーマットを作成する |
| 「子ども・子育て支援金」の控除設定 | 2026年4月分(5月支給分等)の給与から、社会保険料の計算に支援金(労使折半で従業員負担0.115%)が加算されるよう設定する |
| 雇用保険料率の変更設定 | 2026年4月1日以降に支払う給与・賞与の計算において、新しい雇用保険料率(一般の事業の場合は労働者負担5.0/1,000)が適用されているか確認する |
| 随時改定対象者の確認 | 駐車場代相当額を手当として増額支給したことに伴い、標準報酬月額が2等級以上変動する従業員がいないか確認する |
8. おわりに:複雑化する給与計算は社労士へアウトソーシング
2026年4月1日より施行される通勤手当の非課税限度額引き上げは、対象となる従業員の税負担を軽減する制度です。しかし、実務を担当する部門においては「駐車場代の領収書確認」や「社会保険料・子ども子育て支援金の控除額」「雇用保険料率の変更」など、複数の確認作業が発生します。
法改正の時期には、自社の賃金規程や給与システムが最新の法令に適合しているか確認することが求められます。制度の運用や手続きに不明点がある場合は、専門家へ相談することも、適正な労務管理を維持する手段のひとつです。ぜひ社労士法人第一綜合事務所にご相談ください。
この記事の監修者
社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛
- 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
- 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)
東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。