
外国人労働者を雇用する際,最低賃金の遵守や賞与の取り扱い,社会保険・税金の処理など,日本人労働者と共通するルールに加えて,外国人特有の留意点も存在します。
本コラムでは,「外国人労働者の給与計算」に関する基礎知識から実務上の注意点,法的なリスク回避のポイントまで解説します。適切な給与管理を通じて,トラブルのない安定した雇用関係を築いていきましょう。
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目次
1.外国人労働者の給与に関する基本ルール
外国人労働者の給与に関しても,日本人と同様に日本の法制度に基づいた基本的なルールを理解しておく必要があります。
外国人労働者の給与を適切に設定するため,「最低賃金の基礎知識」と「同一労働同一賃金の原則」について詳しく解説します。
1-1.最低賃金の基礎知識
最低賃金とは,使用者が労働者に対して最低限支払わなければならない賃金額を国が定める制度です。日本国内においては,「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。
地域別最低賃金
各都道府県ごとに設定されており,地域によって金額が異なります。
外国人労働者を雇用する際には,事業所の所在地に適用される金額を確認し,その地域の最低賃金以上の給与を支払う必要があります。
特定最低賃金
特定の産業において,労使の合意により地域別最低賃金よりも高い基準が必要とされる場合に設定されます。
都道府県によって対象となる産業は異なり,該当する場合には地域別と特定最低賃金を比較し,高い方の金額を適用しなければなりません。
最低賃金は,雇用形態や国籍に関係なく,すべての労働者に適用されます。
最低賃金を下回る給与を支払った場合,使用者には最低賃金法違反として50万円以下の罰金(特定最低賃金の場合は30万円以下)が科される可能性があります。また,差額の未払い賃金を請求されることもあります。
外国人労働者であっても,最低賃金の遵守は法的義務であることを必ず認識しておきましょう。
1-2.同一労働同一賃金の原則
「同一労働同一賃金」は,正社員と非正規雇用労働者(パート・有期雇用・派遣など)との間で,不合理な待遇差を解消することを目的とした制度です。2020年より本格的に適用され,外国人労働者にも当然適用されます。
企業は,職務内容や配置変更の範囲などを踏まえたうえで,基本給・賞与・各種手当を公平に設定する必要があります。
能力や経験,責任の違いに基づく合理的な待遇差は許容されますが,国籍や雇用形態のみを理由とした不当な格差は違法と判断される可能性があります。
特に,職務内容や責任が同等であるにもかかわらず,外国人労働者だけ待遇が低いという場合は,法令違反とみなされるおそれがあります。
また,非正規雇用労働者の職務内容や配置変更の範囲が正社員と同等であれば,待遇についても同等の扱いが求められます。
外国人労働者の給与を決定する際には,この「同一労働同一賃金」の原則を正しく理解し,公正な処遇を行うことが重要です。
2.給与構成と支払い方法
外国人労働者を雇用する際,給与にはどのような項目が含まれるのか,どのように支払うのかを正しく理解しておく必要があります。給与の基本構成,手当の種類,賞与の取り扱いについて詳しく解説します。
2-1.給与構成
給与は,労働の対価として支払われるものであり,基本給と諸手当で構成されます。代表的な項目は以下の通りです。
基本給
年齢給・勤続給,職能給,職務給,役割給,業績給・成果給などを基に構成され,職種やキャリアに応じて設定されます。
諸手当
残業手当,通勤手当,住宅手当,家族手当などが含まれます。
これらの項目は,労働契約書や就業規則に明記する必要があります。
また,給与明細には各項目の金額を明示し,労働者に説明できるようにしておくことが重要です。
2-2.手当の種類
手当は,基本給に上乗せされる補助的な給与項目です。主な手当の種類と注意点は以下の通りです。
残業手当
時間外労働には,25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
通勤手当
公共交通機関や自動車通勤に応じて,実費または一定基準に基づいて支給されます。
住宅手当
住宅費の補助として支給されます。外国人労働者が世帯主であること等を条件に設定することが一般的です。
家族手当
扶養家族の有無に応じて支給されます。事前に申告書の提出を求めるなど,確認体制を整えることが望ましいです。
手当の支給にあたっては,その条件・金額・支払方法を就業規則や契約書に明記し,透明性のある運用を行いましょう。
2-3.賞与の支払い方
賞与(ボーナス)は,企業の業績や労働者の貢献度に応じて支払われる報酬です。
賞与を支給することで労働者のモチベーション向上や定着率向上が期待できます。以下,賞与に関する主なポイントです。
賞与の支払い義務
法的義務はなく,労働契約や就業規則に規定がある場合に支払い義務が生じます。
計算方法
会社ごとに異なり,基本給の○ヶ月分,評価点数の合計などが基準になるケースがあります。あらかじめ基準を明確にしておく必要があります。
控除内容
賞与にも所得税や社会保険料が課税されるため,控除額を明記した給与明細を交付することが求められます。
支給時期
一般的には年1回または2回(夏・冬)ですが,これも契約または社内規定に基づいて事前に周知しておく必要があります。
賞与に関する制度や条件は,就業規則または個別契約書に明記し,外国人労働者にもわかりやすく説明することが重要です。
3.給与計算の注意点
外国人労働者の給与計算では,税金や社会保険料の適切な控除,労働時間の正確な管理が特に重要です。日本人と同様に法令に基づく処理が求められるため,以下のポイントを正確に把握しておきましょう。
3-1.税金と社会保険
所得税
所得税は,毎月の給与から差し引いて企業が国に納付する「源泉徴収」方式が原則です。源泉徴収税額は,扶養控除等申告書の提出状況により,以下3つの区分に分かれます。
区分 | 概要 | 特徴 |
---|---|---|
甲欄 | 扶養控除等申告書を提出している場合 | 控除が反映され,年末調整が適用される |
乙欄 | 扶養控除等申告書を提出していない場合 | 控除なしで課税,年末調整なし(確定申告必要) |
両欄 | 日雇い・短期アルバイト等に適用 | 一律の日額表に基づく課税 |
外国人労働者であっても,年末調整の対象者であれば必要書類を提出のうえ精算が行われます。特に扶養控除申告書の提出漏れに注意が必要です。
住民税
住民税は,前年の所得に基づいて計算され,居住地の自治体へ納付されます。企業が給与から控除して納付する「特別徴収」が一般的です。
外国人でも,「日本に1年以上滞在する見込みがある場合」は住民税の課税対象となります。
社会保険料
外国人労働者も,原則として日本の社会保険制度に加入義務があります。主な保険とその概要は以下のとおりです。
保険名 | 内容 | 保険料率(例) | 備考 |
---|---|---|---|
健康保険 | 医療費の補助 | 都道府県ごと (例:10%程度) | 労使折半 |
厚生年金 | 老後の年金給付 | 一律18.3% | 労使折半 |
雇用保険 | 失業手当など | 一般:1.45% (労0.55%・企業0.9%) | 労使で負担比率異なる |
介護保険 | 40歳以上対象 | 約1.59% | 労使折半 (40歳~64歳対象) |
これらの保険料は給与から毎月天引きされ,企業が納付します。
外国人労働者にとっては制度が馴染みのない場合もあるため,給与明細での控除内容の説明を丁寧に行うことがトラブル防止につながります。
特に年金については,老後まで日本に居るつもりがない外国人にとって「負担するだけ」のように感じるかもしれません。
年金については帰国後に納付分が還付される「脱退一時金」という制度が用意されています。
このあたりも含めて,会社から外国人労働者に説明することをおすすめします。
脱退一時金については以下のコラムもお読みください。
3-2.労働時間の管理
労働時間の適正な管理は,法令遵守・未払い賃金防止のために欠かせません。外国人労働者にも,労働基準法が全面的に適用されます。
法定労働時間
日本における法定労働時間は次の通りです。
- 1日8時間,1週40時間以内
- これを超える勤務には,「36協定」の締結と労基署への届出が必要です
割増賃金のルール
以下のように,時間帯や勤務形態に応じた割増賃金の支払いが義務付けられています。
労働区分 | 割増率 |
---|---|
時間外労働(8時間/日超) | +25%以上 |
休日労働 | +35%以上 |
深夜労働(22:00〜翌5:00) | +25%以上※時間外労働や休日労働と重なる場合は別途加算 |
労働時間の記録方法
労働時間は,タイムカード,勤怠管理システム,IC打刻などで正確に記録する必要があります。口頭申告や自己申告のみでは法的に不十分とされるケースもあります。
休憩時間の付与
- 6時間を超える勤務:45分以上の休憩
- 8時間を超える勤務:1時間以上の休憩
※休憩時間は原則として労働時間の途中で与えなければなりません
4.労働契約と給与に関する記載事項
労働契約は,雇用主と労働者の間で取り交わされる重要な合意文書です。特に給与に関する項目は,契約書に明確に記載することが求められます。
労働条件を事前に書面で明確にすることにより,後のトラブルを未然に防ぎ,円滑な雇用関係を築くことができます。
外国人労働者との間でも,労働契約は必ず締結し,内容の説明を行ったうえで,署名・押印(またはサイン)を得ることが法的にも望ましい対応です。
労働契約書の重要性
労働契約書は,以下のような項目を明示することで,双方の認識のズレを防ぐ役割を果たします。
- 労働時間・休憩・休日
- 賃金(基本給・手当・賞与・締め日と支払日など)
- 社会保険加入の有無
- 解雇や退職のルール
※給与項目は特に誤解が生じやすいため,金額・条件・支給時期を明記し案内しておくと安心です。
給与に関する主な記載事項
以下のような項目を明記することで,給与に関する誤解や不信感を未然に防ぐことができます。
項目 | 内容 |
---|---|
基本給 | 毎月支払われる固定額。明確な金額を記載します。 |
諸手当 | 残業手当,通勤手当,住宅手当,家族手当など。支給条件も併記します。 |
賞与 | 支給の有無,時期,計算方法などを明記します(義務ではありませんが,ある場合は必ず記載)。 |
賃金の締切日・支払日 | 毎月○日締め,翌月○日払いなど。支払日は原則として「毎月一定の日」に設定する必要があります。 |
社会保険加入の有無 | 健康保険・厚生年金・雇用保険の加入有無を記載し,天引きの根拠を示します。 |
5.給与に関するよくあるトラブルとその対策
外国人労働者との間では,文化・言語の違いや制度への理解不足などを背景に,給与に関するトラブルが発生するケースも少なくありません。
ここでは,実際に多く見られるトラブル事例とその対応策を紹介します。
【事例1】交通費に関する認識のズレ
「実際の交通費より少ない金額になっているので,差額を支給してほしい」と経理にクレームがあった。
通勤手当は「6か月定期券の相当額を支給」という就業規則になっていたが,労働者は定期券を購入せず,ICカードに都度チャージして通勤していた。
対策
- 就業規則や雇用契約書に支給基準を明記する
- 支給方法(定期券前提か実費精算か)を採用時に具体的に説明する
- 外国語での案内や通勤経路確認シートを用意する
【事例2】残業手当の誤解
「残業をしているのに残業代が払われていない」との指摘。
実際は,固定残業代制度を導入していたが,制度の仕組みを本人が理解していなかった。
対策
- 固定残業代の内訳,超過時の追加支給義務を契約時に説明
- 多言語の契約書・説明資料を用意することで誤解を防止
- 実労働時間の記録と毎月の明細記載も徹底する
【事例3】賞与制度の有無で不満が発生
他の従業員が賞与を受け取っているのを見て,「自分にはなぜ支給がないのか」と不満を感じた。
対策
- 賞与は法定義務ではないことを明確にし,支給の有無や条件を契約書や就業規則に記載
- 支給対象や評価基準がある場合は,できるだけ具体的に説明
こうしたトラブルの多くは,「制度の説明不足」や「認識のズレ」に起因します。
採用時・支給時に丁寧な説明を行い,明文化されたルールの整備がありことを伝え,トラブル防止に努めましょう。
6.まとめ
今回は,外国人労働者の給与に関する基本的な知識から,契約時の記載事項,税金・社会保険の取り扱い,トラブル防止のポイントを解説しました。
外国人労働者を雇用するにあたっては,日本の労働法令に基づいた正確な給与計算と,明確な労働条件の提示が必要になります。また,制度や手続きに不安がある場合は,社会保険労務士などの専門家に相談することも有効な手段です。
社会保険労務士法人第一綜合事務所では,外国人雇用に関するご相談を随時受け付けております。ご相談いただいた際には,経験豊富なスタッフが一丸となって丁寧にご対応いたします。
本コラムが,貴社における外国人雇用の一助となれば幸いです。今後の人材活用の参考として,ぜひお役立てください。
この記事の監修者

社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛
- 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
- 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)
東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。