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人事労務コラム

外国人雇用

公開日:2026.09.29

最終更新日:2026.09.29

【社労士解説】ビザ更新費用の高騰と短期離職リスク:会社を守る「費用立替・免除制度」の適法性と導入実務

【社労士解説】ビザ更新費用の高騰と短期離職リスク:会社を守る「費用立替・免除制度」の適法性と導入実務

外国人材の採用拡大が進む一方、企業の実務担当者や経営者を悩ませているのが「ビザ更新・変更手続き費用の高騰」と、それに伴う「ビザ取得直後の短期離職(いわゆるフリーライド転職)」の問題です。

「会社で数十万円の手数料や行政書士費用を負担してビザを更新したのに、そのわずか1ヶ月後に競合他社へ転職されてしまった…」
このようなトラブルに関する相談が、近年社労士事務所にも急増しています。会社を守るために「更新費用を一旦会社が立替え、一定期間勤務したら返還を免除する制度(立替・返還免除制度)」を導入したいと考える企業が増えていますが、ここには労働基準法上の高い法リスクが潜んでいます。

本コラムでは、ビザ費用立替・免除制度の適法な構築方法から、就業規則の変更や個別合意の取得実務、注意すべき最新判例までを実務に即して解説します。

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1. ビザ更新費用が最大7.5万円へ。企業が直面する「更新直後の離職」リスク

(1)法改正による手数料の高騰

これまで在留資格の変更や更新許可申請における入国管理局への手数料は、収入印紙代として「4,000円〜6,000円程度」と比較的小額でした。しかし、2026年10月1日施行の改正入管法により、入管手数料自体が大幅に引き上げられ、更新・変更で最大75,000円、永住許可は20万円へと値上がりします。

入管公式サイト「令和8年10月1日付け在留許可手数料の額の改定等について」より抜粋

追加でかかる専門家への報酬を含めた「トータル費用」の企業負担は著しく増大しています。

(2)「会社負担で更新し、直後に転職される」フリーライド問題の深刻化

ビザの更新・変更にかかる費用について、企業は次のようなジレンマに直面しています。

  • 法律上は、誰がビザの手数料を負担することになっているのか?
    本来、在留資格は個人の資格であるため、維持にかかる費用は「原則として申請人(本人)負担」となります。法律上、会社に負担義務が明記されているわけではありません。
  • しかし、申請人負担だと採用力が落ちる
    実際の採用現場では、優秀な外国人材の獲得競争が激しいため、原則通り本人負担にすると「良い人材が取れない(採用力が落ちる)」という現実があります。「ビザ費用は全額会社負担」とする求人や運用が定着しているのが実情です。
  • しかし、手数料は高い
    前述の通り、法改正により手数料が大幅に高騰し、会社の財務を圧迫します。

ここに目をつけた一部の労働者が「現在の会社でビザを無事更新・変更してもらい、その費用を全額会社に支払わせた直後に、より条件の良い他社へ転職する」という、いわゆる「フリーライド(タダ乗り)離職」が増加し、企業の財務と採用労力に悪影響を及ぼしています。

そのような事態を防ぐためには、「ビザ費用は本人が負担する原則としつつ、会社が立替え、更新後1〜2年間勤続した場合は返還を免除する」という費用立替・返還免除制度の検討が求められます。

2. 労基法16条(賠償予定の禁止)・17条(前借金相殺の禁止)の壁

会社を守るために制度を作る際、最大の障害となるのが労働基準法第16条および第17条の規定です。

(1)法令および関連判例から読み解く「適法と違法」のボーダーライン

まず、関係する労働基準法の条文を確認します。

  • 労働基準法第16条(賠償予定の禁止)「使用者、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」
  • 労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。」

仮に、就業規則や雇用契約書に「ビザ更新後、1年以内に退職した場合は違約金として10万円を支払うこと」や「更新費用を負担した会社への損害賠償として退職金から全額相殺する」といった規定を設けた場合、労基法16条・17条違反となり、規定自体が無効(かつ罰則の対象)となります。

「業務に必要な研修費や資格取得費用の返還義務」については、「実質的に労働者を会社に不当に拘束する手段(退職の自由を奪う手段)」になっているかどうかが厳しく判断されてきました。

(2)「労働と切り離せない貸付」とみなされないための不可欠な要件(金銭消費貸借契約の独立性)

ビザ費用立替・返還免除制度を適法に成立させるための重要なポイントは、「金銭消費貸借契約(借金と返還免除の約束)が、労働契約から明確に独立しているか」という点です。 判例上、以下の「消費貸借特約(返還免除付貸付金)」の法的枠組みを満たす必要があります。

項目違法となるリスクが高いケース(労基法16条違反)適法と認められる可能性が高いケース
費用の性質業務上必須の研修費・会社都合の業務指示本来は本人が負担すべき在留資格の維持費用
契約の形態労働契約書に「早期退職時は違約金を払う」と明記労働契約とは別に「金銭消費貸借契約書」を個別締結
返還免除条件5年〜10年といった極端に長い不当な拘束期間半年〜2年程度の実効的かつ合理的な勤続期間
返還の対象実費を大幅に超える違約金やペナルティ額実際に要した実費(印紙代、行政書士実費)の範囲内

ビザは、本来「日本に滞在・就労するための個人固有の資格」であり、運転免許証や国家資格と同様に「労働者個人に帰属するもの」という側面を持ちます。そのため、「本人が負担すべき費用を会社が業務利便のために一時的に立て替えて貸し付け、一定期間勤務したらその返還を免除する」という金銭消費貸借の形式を正しく整えることが不可欠な要件となります。

3. 既存の「会社負担」ルールの変更は労働条件の不利益変更か?

制度を新設する際、特に既存の外国人社員がいる企業で問題となるのが「労働条件の不利益変更」の問題です。

(1)「長年の慣行」は既得の労働条件として保護される

「これまで就業規則にビザ費用について何も書いていなかったから、明日から新制度(立替・返還免除)に変えても問題ないだろう」と考えるのは危険です。

労働契約法第3条第2項および労働裁判の慣例において、「就業規則に明文の規定がなくても、長年にわたり会社が全額無償でビザ更新費用を負担してきた実績(労使間の労働慣行)」がある場合、それが既得の「労働条件」として成立していると解釈される可能性が高いからです。

この場合、突然「今後は立替金扱いとし、早期退職したら返金してもらう」と変更することは、労働者にとって不利益な労働条件の変更(労働契約法第10条)に該当します。

(2)「合理的な理由」の作り方

就業規則の改定によって不利益変更を有効とするためには、以下の「変更の合理性」を証明しなければなりません。

  1. 労働者の受ける不利益の程度(費用負担の増加額など)
  2. 変更の必要性(行政手数料の高騰、フリーライド離職による会社の損害など)
  3. 変更後の就業規則の内容の相当性(免除条件の期間が1年など適切か)
  4. 労働組合等との交渉の状況・説明のプロセス

実務上は、「入管手続き費用の高騰」という客観的な事実を示しつつ、「一律で全額本人負担とするのではなく、1年間勤務すれば実質無料(免除)になる」といった労働者への配慮(緩和措置)を併せて導入することが、変更の合理性を満たすポイントとなります。

(3)個別合意を取得する必要性

トラブルを回避するため、対象者の状況に応じて対応を明確に分ける必要があります。

〇新規採用者(これから入社する外国人材)

採用時の雇用契約書および就業規則に「ビザ費用立替・返還免除規定」を明記しておけば、同意の上で入社するため不利益変更の問題は生じません。

〇既存社員(すでに在籍中の外国人材)

  • 次回ビザ更新がまだ先の場合: 就業規則改定の説明会を実施し、変更の趣旨を誠実に説明した上で、個別合意書(変更同意書)を取得します。
  • 直前にビザ更新を迎える場合: 個別合意が得られない場合、旧来通りの運用を行わざるを得ないケースもあります。無理な強行は避け、更新申請のタイミングより前に計画的に同意取得を進める必要があります。

4. 給与からの天引き(賃金控除)に関する重要判例

退職時や返還要件に該当した際、「対象社員から立替金をどうやって回収するか」は実務上の最大の難所です。ここで知っておくべき重要判例が住友生命保険事件(大阪高判令6・5・16)です。

(1)住友生命保険事件

賃金からの経費控除・相殺の有効性が争われた本事件において、裁判所は、労働基準法第24条(全額支払の原則)の観点から、単に合意書が存在するだけでなく「その同意が労働者の完全な自由な意思に基づいてされたと認めるに足る合理的な理由が客観的に存在すること」が必要であると示しました。

単に契約書に「退職時に給与から控除する」と形式的に記載されているだけでは、労働者の自由な意思に基づく同意とは認められず、賃金全額払いの原則(労基法24条違反)に反し、相殺や天引きが無効と判断されるリスクが示されています。

(2)雇用契約書や就業規則への根拠規定が必須となる理由

給与や退職金からの天引きを行うためには、実務上以下の「3重の法的手続き」を揃えなければなりません。

  1. 【ステップ1】労使協定(賃金控除に関する協定)の締結
      労基法24条但し書きに基づく、労働者代表との書面協定(天引き項目の明記)
  2. 【ステップ2】就業規則(賃金規程)への明文根拠
    「弁済期が到来した立替金等は、本人の同意を得て給与・退職金から控除できる」旨の規定
  3. 【ステップ3】退職時における「自由な意思に基づく個別の書面同意」
      退職の際、あらためて金銭返還の控除に関する明確な意向を確認する同意書の取得

「労使協定があるから自動的に天引きできる」と認識している企業が多いですが、労使協定はあくまで「天引きしても労働基準法上の罰則を科されない免罰効果」しか持ちません。実際に控除する私法上の権利(天引きする権利)を得るには、就業規則の規定と、本人の「完全な自由意思による個別同意書」が必要なのです。

5. 企業規模と方針で選ぶ2つの制度導入手法

企業の実務能力や外国人社員の人数、スピード感に応じて、制度導入の手法は主に2つのパターンに分かれます。会社の規模・従業員数・規定・慣行等の状況によって、企業が取るべき最適な手段は異なります。リスク管理の観点から自社の状況に合ったアプローチを選択することを推奨します。

【パターンA】就業規則(賃金規程等)を改定する基本の手法

外国人社員を継続的に多数雇用する企業や、コンプライアンス体制を強固にしたい企業向けの手法です。

  • 実施手順:
  1. 就業規則に規定を新設
  2. 労使協定に追加労基署へ提出
  3. 社内告知・説明会(多言語)実施
  4. 社内告知・説明会(多言語)実施
  • メリット:
    会社としての制度基準が明確になり、運用の一貫性が保てる。
    将来の採用時にも「当社の明確なルール」として提示できます。
  • デメリット:
    就業規則変更の手続き(周知、意見書取得、労基署届出)に時間を要します。

【パターンB】就業規則を改定せず個別契約で完結させる柔軟な手法

外国人社員が少数で、取り急ぎ個別対応でリスクヘッジしたい企業向けの手法です。

  • 実施手順:
    ビザ更新の都度、「金銭消費貸借ならびに返還免除特約書」を個別に締結。
  • メリット:
    迅速な対応が可能になります。
  • デメリット:
    更新ごとの事務負担が発生する。 就業規則に根拠がない場合、退職時の給与天引きの適法性においてパターンAより法的リスクが残る。

6.まとめ:トラブルを防ぐ運用徹底と、自社に合った制度設計

ビザ更新費用の高騰と短期離職リスクから会社を守る「費用立替・返還免除制度」は、決して労働者を不当に縛り付けるものではなく、お互いの信頼関係を構築するための仕組みとして導入することが重要です。

実務上の最重要ポイントは以下の通りです。

  1. 違約金・ペナルティ式(労基法16条)にしない
  2. 不利益変更の手続きを怠らない
  3. 給与控除時の「自由意思による同意」を徹底する

しかし、本コラムで解説した内容が「全て」ではありません。

前述の通り、会社規模や従業員数、既存の就業規則の有無、そしてこれまでの運用ルールなどの状況によって、企業が取るべき最適な手段は異なります。

ネット上の雛形を参考に自社流で制度を作ってしまうと、かえって重大な労使トラブル(労基法違反や不当な賃金控除など)を引き起こすリスクがあります。

「自社にあった最適な方法を検討したい」
「うちの会社規模や状況だと、どうすれば一番良いか?」

お悩みの経営者様・人事担当者様は、ぜひ一度、私たち第一綜合グループへご相談ください。同グループ内の社労士と行政書士が連携して、外国人労働者のビザ業務から労務管理までワンストップでサポートしております。

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取り返しのつかないトラブルが起きる前に、ぜひ以下の窓口よりお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛

  • 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
  • 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)

東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。

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