
外国人の採用が珍しいものではなくなってきている今,企業は「採用して終わり」ではなく,在留資格の確認や雇用契約の締結,各種届出といった法令遵守のための正確な手続きが求められます。また,外国人労働者を受け入れる際には,日本人社員と同様に適切な労働条件や職場環境の整備も欠かせません。
本記事では,外国人雇用にかかる企業側の手続きの流れや必要書類,そして見落としがちな注意点まで,社労士の視点からわかりやすく解説します。これから外国人労働者の採用を検討している企業はもちろん,既に雇用している企業にとっても,実務に役立つ内容となっています。
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目次
1.外国人雇用とは?企業が知っておくべき基本事項
日本国内で外国人労働者を雇用する際には,まず「外国人雇用」の基本的な枠組みを理解することが重要です。法的なルールを踏まえたうえで,企業としてのメリットや対応すべき点を整理しましょう。
1-1.外国人雇用に関する法的な枠組み
外国人を雇用する場合も,日本人と同じく各種法令を遵守しなければいけません。外国人という理由だけで採用の対象外としたり,制限なく残業させたり,最低賃金を下回る金額で雇用したりすることはできません。外国人雇用で,特に重要となる法令は以下の通りです。
出入国管理及び難民認定法(入管法)
外国人の在留資格や在留期間,日本で許可される活動内容を定める法律であり,外国人雇用において最も基本となる法令です。採用時には,在留カードの確認と在留資格の適合性の確認が不可欠です。
労働基準法
労働時間,休憩,休日,賃金など,労働条件全般を定める法律です。日本人・外国人を問わず,すべての労働者に等に適用されます。
労働安全衛生法
労働者の安全と健康を確保するための法令です。職場の安全管理や健康診断,安全教育の実施など,受け入れ環境の整備が求められます。
労働施策総合推進法
外国人を含む多様な労働者の就業促進・職業能力の開発,不法就労活動の防止,雇用管理の改善や,再就職支援などについて規定されています。
雇用対策法
外国人労働者を含むすべての労働者に対し,均等な雇用機会を提供することや,能力開発支援,差別の禁止などが規定されています。
これらの法令を正しく理解し,実務に適切に反映させることが,外国人雇用において企業が果たすべき基本的責任です。
1-2.外国人の雇用で企業が得られるメリット
外国人を雇用することは,人材不足の解消の他,多くのメリットがあります。
人材不足の解消
少子高齢化が進行する日本において,慢性的な人手不足が続いています。外国人労働者の採用は,企業活動の維持・拡大を支える貴重な戦力の確保につながります。
組織の多様性向上
異なる文化や価値観を持つ人材が加わることで,職場に新しい視点が生まれ,イノベーションや新たな発想を生む土壌が育まれます。
国際ビジネスへの強化
外国人スタッフは,母国語や現地文化に精通しており,海外とのやり取りやマーケティング,顧客対応において大きな強みとなります。海外進出や外国人顧客の獲得にも貢献します。
企業イメージの向上
多様な人材を受け入れる姿勢は,企業の社会的責任(CSR)を果たす取り組みとして,社内外に好印象を与えます。採用広報やブランディングにも効果的です。
2.外国人雇用に必要な手続きの流れ
外国人を雇用する際には,採用前の準備から入国管理局への届出まで,複数の手続きが必要です。ここでは,外国人雇用における全体の流れを時系列順に項目出しして解説するとともに,特に重要となる在留資格についても細かく解説していきます。
2-1.採用前の準備:在留資格の確認
外国人労働者を採用する際,まず確認すべきは在留資格の内容です。在留資格によって,日本で許可されている活動内容や就労の可否が異なります。
もし,在留資格の範囲外の業務に従事させてしまうと,企業側が「不法就労助長罪」に問われるおそれがあるため必ず確認しましょう。
就労可能な在留資格の種類
外国人が就労可能な在留資格には,活動内容や目的に応じてさまざまな種類があります。どんな仕事でもオールマイティにできる「就労ビザ」は存在しません。
就労できるビザのうち,主なものは以下の通りです。
在留資格の種類 | 内容例 |
---|---|
技術・人文知識・国際業務 | 専門知識や国際的業務に従事する者(例:IT技術者,通訳,翻訳,マーケター) |
技能 | 熟練した技能を有する者(例:調理師,建設作業員,整備士など) |
企業内転勤 | 海外の親会社・支店から日本法人に転勤してくる者 |
経営・管理 | 会社を設立して経営に携わる,または管理職として従事する者 |
身分系資格 ・日本人の配偶者等 ・永住者 ・永住者の配偶者等 ・定住者など | 就労活動の制限がなく,単純労働も含め自由に就労可能な者 |
※「留学」や「家族滞在」などの在留資格は,原則として就労が認められていません。アルバイトなどの労働を行う場合は,あらかじめ入管で「資格外活動許可」を取得する必要があります。
この許可を得た場合でも,労働時間は週28時間以内に制限されており,パート・アルバイトとしての雇用が前提となります。
就労ビザの申請方法
外国人を正式に雇用するには,採用した外国人が適切な就労ビザ(在留資格)を取得しておかなければなりません。ビザ取得までの一般的な流れは以下の通りです。
【パターン①】海外にいる外国人を採用する場合
→ 在留資格認定証明書交付申請が必要です。
①必要書類の準備
雇用契約書,登記簿謄本,外国人の学歴証明書・職歴証明書など。
②在留資格認定証明書交付申請
企業が,地方出入国在留管理局に申請します。
③在留資格認定証明書交付申請の許可後,在留資格認定証明書の送付と査証申請
在留資格認定証明書を海外にいる外国人に送付し,本人が現地の日本大使館等で査証申請。
④査証発給・入国
査証が発給され,日本に入国し就労が可能となります。
【パターン②】既に日本に在留している外国人を採用する場合
→ 在留資格変更許可申請が必要です。
例:留学生が卒業後に正社員として就職するケースなど
①必要書類の準備
雇用契約書,卒業証明書・成績証明書,在留カードのコピーなど。
②在留資格変更許可申請
外国人本人が,地方出入国在留管理局に申請します(雇用する企業がサポート可能)。
申請内容は,「留学」ビザ→「技術・人文知識・国際業務」ビザなどに変更。
③審査・許可
審査には通常1〜2ヶ月かかります。許可されると,新しい在留カードが交付されます。
新しい在留カードを受け取った後,就労が可能になります。
ビザ(在留資格)の申請には法的・実務的な知識が求められるため,行政書士などの専門家への依頼も検討するとよいでしょう。
資格外活動許可について
留学ビザや家族滞在ビザなどの在留資格は,原則として就労が認められていません。しかし,「資格外活動許可」の取得をすることで制限付きでアルバイトなどの就労が可能になります。
- 申請先:地方出入国在留管理局
- 必要書類:パスポート,在留カード,資格外活動許可申請書など
- 注意点:原則,週28時間以内の労働時間に制限されます
※長期休暇中は,例外的に週40時間働くことができる場合があります。
許可を得ずに就労した場合は,不法就労として本人・雇用主ともに罰則の対象となるため,申請状況を必ず確認しましょう。
2-2.雇用契約の締結
外国人を採用する際は,在留資格の確認を終えたうえで,適切な雇用契約を締結する必要があります。契約の内容は,外国人労働者にも理解できるよう,明確で誤解のない表現で示し,双方が同意したうえで署名・保管する必要があります。
雇用契約書作成のポイント
雇用契約書には,労働基準法に基づき,以下のような労働条件の基本事項を記載します。とくに在留資格との整合性が問われるため,業務内容の記載には十分な注意が必要です。
記載項目 | ポイント |
---|---|
契約期間の有無 | 契約期間の有無,更新の有無,更新の基準などを明記 |
業務内容 | 在留資格で認められた範囲内の業務に限定(例:技術・人文知識・国際業務なら通訳・マーケティング等) |
就業場所 | 勤務地や異動の可能性がある場合は,その範囲も記載 |
労働時間 | 始業・終業時間,休憩時間,休日,時間外労働の有無などを具体的に記載 |
賃金 | 基本給,残業手当,通勤手当,賞与等,支払方法・締め日・支払日などを明記 |
社会保険 | 健康保険,厚生年金,雇用保険の加入有無を明記 |
退職・解雇 | 自己都合退職や解雇の条件,手続きなどを明記 |
※母国語対応の推奨
外国人労働者の理解を促すため,雇用契約書は日本語と外国人労働者の母国語の両方で用意することが望ましいです。
また,説明時には通訳や翻訳ツールの活用も検討し,伝える内容に齟齬のないように努めましょう。
労働条件通知書の発行
労働基準法第15条により,雇用契約の締結にあたっては,使用者が労働者に対し労働条件を書面で明示することが義務づけられています。これを担うのが「労働条件通知書」です。
※労働条件通知書はその名称や渡すタイミングから,雇用契約書と混同されやすいですが,役割が異なります。
書類名 | 目的 | 効力 |
---|---|---|
労働条件通知書 | 労働条件の「提示」が目的 | 使用者からの一方的な明示義務 |
雇用契約書 | 労働条件の「合意」が目的 | 労使双方の合意によって成立 |
2-3.入社後の手続き
外国人労働者を雇用した後は,日本人と同様に各種の社会保険・労働保険の手続きが必要です。以下では,健康保険・厚生年金・雇用保険について,それぞれの加入条件と申請の流れを解説します。
健康保険の加入条件と手続き
健康保険は,病気やけが,出産などの際に医療費を軽減し,休業時の所得補償も行う制度です。
外国人労働者も,日本国内で労働契約を締結している場合は原則として加入対象となります。
加入条件:短時間労働者の特例(※従業員51人以上の場合)
原則として,週の所定労働時間および所定労働日数が,正社員の概ね3/4以上であれば,健康保険に加入しなければなりません(適用事業所であることが前提)。
また,事業所の規模が従業員数51人以上の場合,下記のすべてを満たす短時間労働者(いわゆる“特定適用対象者”)も加入義務の対象になります。
- ・週の所定労働時間が20時間以上
- ・月額賃金が88,000円以上(年収106万円以上)
- ・2ヶ月を超えて雇用される見込み
- ・学生でない
- ・従業員数51人以上の事業所で勤務
※正社員の場合は,上記条件に関係なく加入対象となります。
手続き
- 提出期限:入社日から5日以内
- 提出先:年金事務所または健康保険組合
- 提出書類:健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
厚生年金保険の加入条件と手続き
厚生年金保険は,老後の年金給付だけでなく,障がいや死亡による遺族への保障も含む公的制度です。外国人労働者も,条件を満たせば日本人と同様に加入が必要です。
加入条件
健康保険と同様に,以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が88,000円以上
- 2ヶ月を超えて雇用される見込み
- 学生でない
- 従業員数51人以上の事業所に勤務
手続き
※健康保険と同時に手続きを行うことが一般的です。
- 提出期限:入社日から5日以内
- 提出先:年金事務所
- 提出書類:健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
雇用保険の加入条件と手続き
雇用保険は,失業時や育児・介護休業時に給付金を受け取れるほか,教育訓練やキャリア形成支援にも活用できる制度です。外国人労働者も,一定の条件を満たせば加入が必要です。
加入条件
- 31日以上の雇用見込み
- 週20時間以上の所定労働時間
※留学生など「就労が主目的ではない在留資格」を持つ者は,原則として加入対象外です。
手続き
- 提出期限:入社月の翌月10日まで
- 提出先:所轄のハローワーク
- 提出書類:雇用保険 被保険者資格取得届
※在留カード情報(番号・就労制限の有無など)の記載が必要です。提出前にカードの現物確認を忘れずに行いましょう。
住民税の手続き
住民税は,居住地の市区町村に対して納める地方税であり,日本に居住する外国人も対象となります。住民税の納税義務は,入社時点で日本に「居住」していれば原則として発生します。
雇用主は,給与から住民税を天引きして納付する「特別徴収制度」を原則として適用する必要があり,入社後には所轄の市区町村へ届出を行わなければなりません。
特別徴収へ切り替える際の手続きは,外国人労働者が前職を辞めて転職してきた場合,前職での住民税の取扱状況によって,必要な提出書類が異なります。
【パターン①:前職が特別徴収だった場合】
→ 給与所得者異動届出書
- 前職企業で「特別徴収」が行われていた場合は,その情報が記載された「給与所得者異動届出書」を利用します。
- 現在の雇用主が追加事項欄に必要情報を記入し,転入先の市区町村に提出することで,特別徴収が継続されます。
【パターン②:前職退職後に普通徴収に切り替わっていた場合】
→ 特別徴収切替依頼書
- 退職により一時的に本人が住民税を個別に納付(普通徴収)していた場合には,再度特別徴収への切り替えが必要です。
- この場合,特別徴収切替依頼書を現在の雇用主が作成し,所轄の市区町村に提出します。
外国人労働者も日本で住民登録をしている場合,住民税の課税対象となり,年収や扶養状況に応じた課税額が決定されます。本人が内容を理解できるよう,必要に応じて多言語での説明を行うと良いでしょう。
2-4.入管への届出
外国人労働者を雇用する企業は,在留資格や就労状況を正確に反映させるために,入管(出入国在留管理庁)への届出義務を負っています。これらの届出を怠った場合には,企業・本人ともに不利益を被る可能性があります。
雇用開始・終了の届出
企業が外国人を受け入れる際には,在留資格に応じて,法務省令で定められた中長期在留者に関する受入れ状況の届出が必要です。
対象となる在留資格(例)
- 教授
- 高度専門職
- 経営・管理
- 法律・会計業務
- 医療
- 研究
- 教育
- 技術・人文知識・国際業務
- 企業内転勤
- 介護
- 興行
- 技能
- 研修 など
※「外国人雇用状況の届出(ハローワークへの届出)」が義務付けられているケースでは,こちらの入管届出は省略できる場合があります。
雇用開始の届出
- 期限:雇用開始から14日以内
- 提出先:地方出入国在留管理局(郵送可)
- 添付書類:在留カードの写しなど
- 様式:「中長期在留者の受入れに関する届出書」
雇用終了の届出
- 期限:雇用終了から14日以内
- 提出先:地方出入国在留管理局
- 添付書類:在留カードの写しなど
- 様式:「中長期在留者の受入れ終了に関する届出書」
これらの届出を怠った場合,外国人本人の在留資格の取消しや,更新・変更手続き時の不利な判断につながる可能性があります。企業にとっても,入管からの信頼を損なうリスクとなるため,期限内かつ正確な届出が求められます。
内容や自社の運用に不安のある場合,外国人のビザなどを専門とする行政書士や,外国人の労務管理を専門とした社労士などに相談することをおすすめいたします。
3.外国人雇用で企業が注意すべきポイント
外国人労働者の雇用にあたっては,法令の遵守だけでなく,文化・言語の違いを踏まえた配慮や管理体制が求められます。ここでは,企業が注意すべき代表的なポイントを解説します。
3-1.適正な労働条件の確保
外国人労働者に対しても,日本人と同様に適正な労働条件を保障しなければなりません。以下の3点は,労務トラブルを未然に防ぐ上でも注意したい点です。
均等待遇の確保
国籍を理由に,賃金や労働時間,福利厚生などについて差別的な取扱いをしてはなりません。外国人労働者にも,日本人と同様の基準で適切な待遇を提供する必要があります。
労働条件の明示
雇用契約の締結に際しては,賃金や労働時間,契約期間など主要な労働条件を記載した書面を交付することが義務付けられています。外国人が理解しやすい表現・言語での説明に努めましょう。
労働関係法令の周知
労働基準法,就業規則,労使協定等の内容について,外国人労働者が内容を理解できるように周知することが求められます。母国語資料や図解・動画などの活用が有効です。
3-2.安全衛生の確保
労働災害を防止し,安全に働ける環境を整えることは,企業の重大な責務です。
安全衛生教育の実施
機械操作や危険物の取扱いに関する教育は,外国人が理解できる言語・視覚的教材などを活用し,内容を正確に理解させることが重要です。
災害防止のための日本語指導
基本的な作業用語や指示の理解を促すため,簡易な日本語教育や合図の研修を導入することも有効です。
3-3.適切な人事管理・教育訓練・福利厚生等
外国人労働者が職場に定着し,能力を発揮できる環境を整えるために,以下の取り組みが求められます。
公正な人事管理と多言語対応
人事評価や配置,給与体系などにおいては,透明性と公正性を保ちましょう。また,社内規程や通知の多言語化も検討しましょう。
教育訓練の実施
業務に必要な知識・スキル習得のための研修制度の整備は,外国人労働者の定着に直結します。初期導入研修は,母国語での対応も効果的です。
在留資格変更・帰国の支援
在留期間の更新や変更時には,勤務時間の調整など企業側の柔軟な配慮が必要です。また,在留満了時の帰国手続きや一時帰国希望への対応も行いましょう。
その他にも,企業は文化の違いを理解し,受け入れる必要があります。外国人労働者と対話の機会を多く設け,意思疎通を図りましょう。
4.まとめ
外国人を雇用することは,単なる人手不足の解消にとどまらず,組織の多様性や国際競争力の向上など,企業にとって多くのメリットをもたらします。しかしその一方で,在留資格の確認や雇用契約の締結,各種保険手続き,入管への届出など,遵守すべきルールや手続きが多岐にわたります。
本コラムでご紹介した内容を参考に,一つひとつのステップを丁寧に進めることで,合法的かつ円滑な外国人雇用を実現できます。
もし社内での対応に不安がある場合には,在留資格の取得や管理に詳しい行政書士や,外国人雇用の労務管理に強い社労士のサポートを受けることも検討してみてください。
この記事の監修者

社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛
- 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
- 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)
東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。