
人手不足が深刻化する日本社会において,外国人労働者の雇用は今や多くの企業にとって避けて通れない選択肢となっています。しかし,外国人雇用には在留資格の確認や労務管理,文化的な配慮など,独自の法律知識と実務対応が求められるため,「なんとなく」で進めてしまうと重大なリスクにつながりかねません。
本コラムでは,外国人雇用の基本から実務,そしてリスク対策までを,社労士の専門的視点からわかりやすく解説します。制度を正しく理解し,企業と外国人労働者の双方が安心して働ける職場づくりを目指しましょう。
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目次
1.外国人労働者の雇用に適用される法律とは?
外国人を雇用する企業は,「労働基準法を守っていれば大丈夫」と考えていませんか?
実は,外国人の雇用においては,日本人と共通する労働関係法令に加え,外国人特有の法令や手続きが存在します。
ここでは,外国人労働者を雇用するうえで企業が理解しておくべき法制度を,外国人特有の法律とすべての労働者に共通する法律に分けて整理します。
1-1.外国人特有の法律
出入国管理及び難民認定法(入管法)
外国人が日本で働くためには,適切な在留資格を保有している必要があります。
この在留資格の種類や活動内容を規定しているのが「入管法(出入国管理及び難民認定法)」です。
企業は,外国人労働者の採用前に以下を必ず確認しましょう
- 就労が可能な在留資格かどうか
- 在留カードの有効期限と活動内容
- 資格外活動の許可の有無(留学生アルバイトなど)
※不法就労者を雇用してしまった場合,企業側も「不法就労助長罪」として罰則の対象となる可能性があるため,確認・記録・更新管理が必須です。
※「就労が可能な在留資格かどうか」の確認は,弊社の以下コラムをご覧ください。
参考:「外国人雇用は社労士に相談!手続き,労務管理,助成金,選び方を徹底解説」
雇用対策法(第28条:外国人雇用状況の届出)
企業が外国人を雇用または離職させる際には,ハローワークへ「外国人雇用状況届出書」を提出する義務があります。
これは,「外交」「公用」の在留資格を除く,すべての外国籍労働者(永住者や配偶者ビザ含む)が対象です。
提出事項には,以下が含まれます。
- 氏名
- 在留資格
- 在留期間
- 生年月日
- 国籍・地域
この届出を怠った場合には,30万円以下の罰金が科される可能性があるため注意が必要です。
1-2.すべての労働者に共通する法律
続いて,すべての労働者に適用される法律をご紹介します。外国人労働者も,日本国内で働く以上,以下の法律が日本人と同様に適用されます。
労働基準法
労働時間,賃金,休日,有給休暇,解雇制限など,労働条件の最低基準を定めた法律です。
第3条(均等待遇)では,国籍等による差別的取扱いを禁止しており,外国人にも日本人と同等の労働条件を保障する必要があります。
労働契約法
雇用契約の締結や変更,終了に関する基本ルールを定めた法律です。特に契約更新の合理的期待がある場合には,無理な雇い止めが無効と判断されるリスクもあるため,在留期間との整合性を考慮して契約設計を行いましょう。
社会保険関係法令
外国人であっても,以下の条件を満たせば社会保険の加入が義務づけられます。
- 健康保険法・厚生年金保険法
→ 所定労働時間が週20時間以上,かつ要件を満たす場合に加入 - 雇用保険法
→ 所定労働時間20時間以上+31日以上の雇用見込みで加入 - 労働者災害補償保険法(労災保険)
→ 雇用形態・国籍問わず,労働者を1人でも雇っていれば自動適用
1-3.外国人雇用で特に注意すべき法的ポイント
外国人雇用においては,以下のような「日本人にはない注意点」が発生します。
注意点
- 在留資格の範囲を超える業務をさせていないか?
- 更新・変更の管理を誰が行っているか?
- 契約期間と在留期間の整合性は取れているか?
- 言語能力に応じた安全教育ができているか?
特に「就労可能な在留資格でないのに業務を行わせる」ことは,重大な法令違反です。
また,日本語理解が不十分な状態で安全配慮を怠ると,労災リスクや損害賠償に発展することもあります。
2.外国人雇用の前に確認すべき在留資格と許可手続き
外国人労働者を雇用する際には,必ず「在留資格の確認」を行いましょう。在留資格によって就労の可否・業務範囲・滞在期間が異なり,誤った理解のまま雇用を始めてしまうと,不法就労助長罪など重大なリスクにつながることもあります。
就労可能な在留資格の種類,確認・更新・変更の手続き,そして不法就労を未然に防ぐための社内体制について解説します。
2-1.就労可能な在留資格の種類と注意点
在留資格は29種類以上あり,その中でも「就労が認められる資格」「認められない資格」「条件付きで認められる資格」に分かれます。
就労が認められている在留資格
在留資格 | 想定される職種・業務例 |
---|---|
技術・人文知識・国際業務 | エンジニア,通訳,海外営業など |
特定技能 | 外食,介護,建設,農業など16分野 |
高度専門職(イ・ロ・ハ) | 高度な研究職,マネジメント職など |
経営・管理 | 起業家,事業運営者など |
介護 | 介護福祉士としての業務 |
技能 | 調理師,建築大工など熟練技能職 |
企業内転勤 | 海外子会社からの駐在員など |
※資格ごとに就ける職種が法律で定められており,業務内容が逸脱すると違法雇用となります。
※参考:出入国管理庁「在留資格一覧表」
就労が認められていない,または制限付きの在留資格
認められていない(原則不可)
- 文化活動(例:茶道や日本文学研究など)
- 短期滞在(例:観光・親族訪問・短期ビジネス)
この場合,資格外活動許可も原則下りないため,採用対象とはなりません。
条件付きで可能(資格外活動許可が必要)
以下のような在留資格では,「資格外活動許可」を取得することで,制限付きでの就労が認められます。
- 留学:飲食店・コンビニなどでのアルバイト(週28時間以内)
- 家族滞在:配偶者ビザで来日中の方がパート勤務を希望する場合
- 特定活動:一部就労を許可する活動内容に基づくもの(ワーホリなど)
- 研修:本来就労不可だが,許可を得て報酬を得る教育的活動を実施
※資格外活動許可とは?
資格外活動許可とは,出入国在留管理庁に対して申請し,本来の在留資格に含まれない就労活動を一定範囲内で認めてもらう制度です。
たとえば,留学生や家族滞在の在留資格を持つ外国人がアルバイトをしたいとき,本来その資格では働くことができませんが,資格外活動許可を取得することで,決められた範囲内で働くことができます。
資格外活動許可を持つ留学生の場合,原則「1週間に28時間以内」まで働くことが認められています。例外的に,長期休暇中(夏休みなど)は,1日に8時間以内,週40時間まで働くことができます。
2-2.在留資格の確認・更新・変更の実務対応
外国人雇用におけるトラブルの多くは,在留資格の「確認不足」「管理ミス」「認識のズレ」から発生します。在留カードの目視確認だけでは不十分であり,企業側が責任をもって「確認・記録・更新管理」まで一貫して行う体制が必要です。
ここでは,社労士として実務上押さえておくべき在留資格対応の要点を整理します。
①採用前:在留資格確認
チェック項目 | 確認内容 | 注意点 |
---|---|---|
在留資格の種類 | 業務内容と適合しているか | 「技術・人文知識・国際業務」で単純労働は不可「経管」で実務従事はNG など |
在留期間 | 有効期限内か残存期間は十分か | 採用前に「3ヶ月未満」の場合は更新計画が必要 |
就労可否 | 「就労可」か「資格外活動許可」か | 留学生・家族滞在は特に要注意(裏面の「資格外活動許可」の記載有無を確認) |
在留カード | 偽造・失効カードでないか | 券面の傷・字体・ICチップなども確認(不審点があれば相談) |
※在留カードの一時預かり後は,両面の写しをとっておくと良いでしょう。
②雇用期間中:在留資格の更新・管理体制
管理項目 | 対応内容 |
---|---|
在留期間満了日の把握 | 社内の労務システムやExcelで管理アラート設定推奨(90日前・30日前など) |
更新手続き支援 | 必要書類(雇用契約書,在職証明書,給与台帳など)を迅速に用意本人と密に連携 |
更新結果の確認 | 入管から「更新許可通知」が届いたらコピーを取得し,在留カードの再確認 |
更新が間に合わず在留期限を超過すると「不法残留(オーバーステイ)」となり,企業にも監督責任が問われます。入管審査においては,過去の雇用状況(年収・契約更新実績など)も見られるため,書類の整備も行いましょう。
ビザの更新や自社内での管理に不安がある場合は,ビザの専門家である行政書士等に相談を行いましょう。
2-3.不法就労を防ぐチェック体制の構築
外国人の雇用において,企業側が警戒すべきリスクの一つが「不法就労」です。
不法就労が発覚した場合,本人が退去強制処分となるだけでなく,企業にも「不法就労助長罪」などの刑事罰や社会的信用失墜のリスクがあります。
「知らなかった」「確認したつもりだった」では済まされないこのリスクを防ぐには,採用前・採用後・更新管理までを含め,組織的にチェックを行う体制を構築しましょう。
不法就労とは?
- 就労が許されない在留資格で働いている
例:短期滞在ビザで飲食店勤務,留学ビザで無許可アルバイト - 在留資格の範囲外の業務に従事している
例:「技術・人文知識・国際業務」で工場ライン作業など - 在留期限を超えて就労を継続している
例:在留カードの期限切れに気づかずそのまま勤務
採用時の確認と記録
対策 | 内容 |
---|---|
在留カードの原本確認 | 偽造対策として,ICチップの読み取りやフォント異常にも注意 |
在留資格・期間の適合確認 | 職務内容と一致しているか/残存期間が十分か |
就労可否の確認 | 「就労制限なし」or「資格外活動許可」が必要か確認 |
資格外活動の有無 | 裏面の許可シールで「28時間以内」等の記載確認 |
書面の保存 | 写しを人事台帳に保管/本人からの誓約書取得も有効 |
※「真面目そうだから大丈夫」「日本語が流暢だから大丈夫」など,確認者の主観での判断せず,事実確認を徹底しましょう。
雇用中の在留管理
項目 | 管理方法 |
---|---|
在留期間の管理 | スプレッドシートや勤怠システム等に期限入力/90・30日前アラート通知設定 |
契約内容と整合性確認 | 人事異動・業務変更が資格範囲を逸脱していないか定期確認 |
変更・更新申請のサポート | 書類作成支援(雇用契約書・職務内容証明書)や申請スケジュールの共有 |
資格変更予定者の特定 | 留学生からの内定承諾時点で「変更許可申請前提」での内定を明示 |
よくある落とし穴と防止策
ケース | リスク | 防止策 |
---|---|---|
留学生アルバイトの資格外活動許可が失効していた | 不法就労助長罪の恐れ | 就労時間の上限管理定期的な裏面シールチェック |
「技人国」で採用したが,実質販売業務だった | 業務内容逸脱で不許可→更新不可 | 職務内容の定義づけと現場への周知 |
在留期限を1日過ぎて勤務継続 | 雇用主の管理責任問われる | リマインダー設定月次チェック体制の導入 |
※万が一の事案にも備えて,行政との連携・専門家ネットワーク・社内教育体制までを整えておきましょう。
3.外国人雇用における実務対応と社内整備
外国人労働者を雇用する際,法令に基づく手続きや労働条件の整備に加え,言語や文化の違いを踏まえた職場対応も求められます。この章では,契約・就労条件・社会保険・教育支援の4つの視点から,実務対応について解説します。
3-1.労働条件の明示と雇用契約書の作成ポイント
外国人労働者にも,日本人と同様に労働基準法第15条に基づき労働条件の明示が義務づけられています。
加えて,言語能力や文化背景の違いによる誤解を防ぐための工夫が不可欠です。
明示すべき労働条件(※書面交付必須)
- 雇用契約期間(有期/無期)
- 就業場所・従事業務
- 始業・終業時刻,休憩・休日,所定外労働
- 賃金の計算・支払方法
- 解雇・更新の条件
- 社会保険の適用有無
社労士視点からの工夫ポイント
課題 | 工夫例 |
---|---|
言語の壁 | 英語・中国語・ベトナム語など多言語対応の雇用契約書を準備 |
誤解リスク | 口頭説明+翻訳書面の2段構え内容理解確認のサイン取得 |
更新トラブル | 契約書に「更新の可能性」「更新条件」などを明記し,合理的期待のトラブルを回避 |
労使間の不信 | 雇用契約書とは別に「労働条件通知書」の配布も推奨(労基署監査でも有効) |
3-2.労働時間・休日・賃金における留意事項
外国人労働者であっても,労働時間・休憩・休日・割増賃金のルールは日本人と完全に同一です。
労働時間と休日の原則(労働基準法)
- 所定労働時間:1日8時間,週40時間以内
- 休憩時間:労働時間が6時間超で45分以上,8時間超で60分以上
- 休日:毎週1回以上
- 割増賃金:時間外125%,休日135%,深夜25%
社労士の視点での注意点
例 | 留意点 |
---|---|
シフト労働 | 時間管理が曖昧だと「過重労働」「割増未払い」になるリスク大 ※特に「資格外活動」で働く場合に注意が必要 |
言語表記の就業規則 | 最低限,労働時間・休暇・残業ルールは多言語版で説明を |
寮・社宅提供時の賃金控除 | 控除額・項目は事前同意+就業規則・賃金規程に明示必須 |
時間外労働の同意 | 36協定と個別同意のセット管理 ※外国語に対応した書面があると良い |
3-3.社会保険・雇用保険・厚生年金の適用と手続き
外国人労働者も,就労条件を満たせば社会保険に日本人と同様に加入義務が生じます。特例や免除は原則なく,「国籍による適用除外」は存在しません。
保険別の適用要件と実務ポイント
保険種別 | 適用要件 | 留意点 |
---|---|---|
健康保険・厚生年金 | 所定労働時間が週20時間以上2ヶ月超の雇用見込み学生除外など | 在留資格に関係なく適用脱退一時金の説明も忘れずに |
雇用保険 | 週20時間以上・31日以上の雇用見込み | 加入手続きとともに,ハローワークへの「外国人雇用状況届出」も必要 |
労災保険 | 労働者を1人でも雇えば自動適用 | 不法就労者でも原則補償対象未加入企業に厳しい監督 |
※離職時には被保険者資格喪失届の提出だけでなく,在留カード番号の記録削除も必要なため確認しましょう。
4.まとめ
昨今,外国人労働者の雇用は,単に人手不足を補う手段ではなくなってきています。しかしその一方で,在留資格の誤認や労働条件の不備,不法就労への無自覚な関与といったリスクが,企業の法令違反や社会的信用の低下につながることもあります。
本コラムでは,外国人雇用にあたって企業が遵守すべき入管法・雇用対策法・労働関係諸法令の基礎知識を整理し,さらに実務上のチェックポイントや社内整備のポイントをご紹介しました。
第一綜合グループは,社会保険労務士法人に加えて行政書士法人も併設しており,在留資格の申請から労務管理・制度整備までを一貫してご依頼いただける体制を整えております。不安や疑問がある場合は,当グループまでご相談ください。
この記事の監修者

社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛
- 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
- 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)
東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。