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人事労務コラム

給与計算

公開日:2026.09.10

最終更新日:2026.09.10

【2026年10月改定】最低賃金は全国平均1,177円(+56円)へ!「最低賃金割れ」を防ぐ給与計算と実務対策

【2026年10月改定】最低賃金は全国平均1,177円(+56円)へ!「最低賃金割れ」を防ぐ給与計算と実務対策

2026年(令和8年)10月、全国の地域別最低賃金が過去最大規模で引き上げられます。
厚生労働省の中央最低賃金審議会から出された答申によると、今年度の地域別最低賃金額改定の目安は全国加重平均で「1,177円」(前年比56円増、引き上げ率5.0%)となりました。
「時給制のアルバイトやパートタイマーだけの問題」と考えている経営者様や人事担当者様もいらっしゃるかもしれませんが、実は月給制で働く新卒社員や正社員においても「最低賃金割れ」が発生するリスクが非常に高まっています。
本コラムでは、専門家の視点から2026年10月改定の概要と、最低賃金を下回らないための正確な給与計算実務、企業が講じるべき具体的アクション、そして外国人労働者を雇用する企業における入管法上の重大なリスクについて客観的に解説します。

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1. 2026年度最低賃金改定の概要と影響

(1)全国加重平均1,177円(+56円)とランク別の改定目安

厚生労働省の第75回中央最低賃金審議会において、2026年度の地域別最低賃金額改定の目安が取りまとめられました。

今年度の引き上げ額の目安は、全国加重平均で「1,177円」(前年度比56円増、引き上げ率5.0%)となり、過去最大規模の引き上げとなった昨年度(66円増)に引き続く高水準改定となりました。

政府が掲げる「2030年代前半までにできる限り早期に全国平均1,500円を達成する」という目標に向け、物価上昇による生活購買力の維持や労働力の確保を目指した改定が続いています。

都道府県の経済実態に応じたランク別の引き上げ額目安は以下の通りです。

ランク区分対象都道府県(例)引上げ額の目安
Aランク(6都府県)埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪54
Bランク(28道府県)北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡56
Cランク(13県)青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄56

今回の指標における大きな特徴は、地域間格差の是正を配慮し、BランクおよびCランクの引き上げ目安(56円)がAランク(54円)を上回る設定となった点です。都市部への労働力流出を防ぐため、地方部においても積極的な引き上げが求められています。

今後は各地方最低賃金審議会での審議を経て、各都道府県労働局長により最終的な改定額が決定されます。

(2)改定額の発効日(適用開始日)に関する実務上の注意点

地域別最低賃金の改定額は、各都道府県の審議を経て決定され、毎年10月1日から10月中旬(地域によってはそれ以降)にかけて順次発効されます。実務上で最も注意すべきなのは、「10月分の給与計算における適用開始タイミング」です。

賃金支払のルール上、「発効日以降に労働した時間」に対して新最低賃金以上を支払う義務が生じます。

項目実務上の留意点・対応策
締め日と支払日例:15日締め・月末払い(10月10日発効の場合)

・9月16日〜10月9日勤務分:旧最低賃金以上

・10月10日〜10月15日勤務分:新最低賃金以上
日割り計算の要否月の途中で発効日を迎える締め日の場合、同一の給与計算期間内であっても発効日を境に単価を切り替えて日割り計算を行うか、あるいは10月1日勤務分(締め日全体の初日)から先行して新単価を適用する実務的な対応が必要です。

発効日を跨いだ給与計算で旧単価のまま一括処理してしまうと、発効日以降の労働時間について「最低賃金法違反」が発生するため、事前の社内システムの単価設定変更が不可欠です。

2. 「最低賃金割れ」を防ぐための給与計算実務

(1)最低賃金の対象となる賃金と「除外される手当」の区分

最低賃金(時間額)との比較対象となる賃金は、毎月決まって支払われる「通常の賃金」に限られます。労働給与として支給している総額から、特定の賃金を除外して計算しなければならない法的ルールが定められています(最低賃金法第4条第3項)。

区分対象となる賃金・手当除外される賃金・手当(計算に含めない)
手当の性質・基本給
・職務手当
・役職手当
・地域手当
・資格手当 など
精皆勤手当
通勤手当
家族手当(扶養手当)
時間外・休日・深夜割増賃金
臨時に支払われる賃金(結婚手当等)
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)

例えば、給与明細の総支給額が「21万円」であったとしても、そこに通勤手当1万円、家族手当1万円、残業手当2万円が含まれている場合、最低賃金の比較対象となる賃金は「17万円」となります。

(2)月給制社員の「時間額換算」の正しい計算方法

最低賃金割れで最も不履行が発生しやすいのが、新卒社員や基本給の設定が低めの正社員(月給制)です。月給制社員の場合、以下の計算式によって「1時間あたりの賃金額」を算出し、管轄都道府県の最低賃金額と比較する必要があります。

【月給者の時間額換算式】
( 月給額 - 除外手当 ) ÷ 1ヶ月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額

「1ヶ月平均所定労働時間」は、会社の年間休日カレンダーに基づき、次のように算出します。

【1ヶ月平均所定労働時間】= ( 365日 - 年間休日数 ) × 1日の所定労働時間 ÷ 12か月

【実務で使える具体的な計算例】
条件: 東京都(改定後最低賃金額が目安通り1,280円となった場合)、
年間休日120日、1日の所定労働時間8時間、月給20万円(基本給18万円+職務手当1万円+通勤手当1万円)

  1. 除外手当の控除: 20万円 - 1万円(通勤手当)= 19万円(比較対象賃金)
  2. 1ヶ月平均所定労働時間の算出: ( 365日 - 120日 ) × 8時間 ÷ 12か月 = 163.33時間
  3. 時間額の計算: 190,000円 ÷ 163.33時間 = 約 1,163.2円
  4. 判定: 1,163.2円 < 最低賃金 1,280円 ⇒ 「最低賃金割れ(不適法)」

一見、基本給と職務手当で19万円を支給していても、年間所定労働時間との関係から時間額換算で最低賃金を大幅に下回り、是正勧告の対象となることがわかります。

(3)固定残業代(みなし残業手当)を導入している場合の再計算

固定残業代(一定時間分の時間外手当として定額支給する手当)を導入している企業は、特に慎重な再計算が求められます。

  • 固定残業手当自体は最低賃金の対象外:
    割増賃金に該当する固定残業代は最低賃金の比較対象から除外されます。そのため、「基本給部分+対象手当」のみで時間単価を算出し、最低賃金をクリアしなければなりません。
  • 基本給引き上げに伴う「残業単価の上昇」連鎖:
    最低賃金割れを解消するために基本給(1時間あたりの基礎単価)を引き上げた場合、連動して割増賃金の基礎単価も上がります。その結果、従来設定していた「〇〇時間分」相当の固定残業手当の金額では不足が生じ、固定残業手当の支給額自体も引き上げなければならないという連鎖的リスクが生じます。

3. 企業が講じるべき具体的なアクション

(1)全従業員の賃金シミュレーションと不足額の特定

改定地域別最低賃金の発効日前(9月中)に、雇用形態(正社員・契約社員・パート)を問わず全従業員の現在の時間単価を一覧化し、改定額との差額をシミュレーションする緊急点検が必要です。

特に、月給制社員の「給料格差」や、昇給が長期間行われていないベテランパート等の単価が逆転していないかを確認し、基本給改定の社内内裁および契約変更通知の準備を急ぐ必要があります。

(2)「106万円の壁」撤廃との複合対策

2026年10月からは、短時間労働者に対する社会保険適用拡大に伴い、これまで基準となっていた「月額賃金8万8,000円以上(年収約106万円)」という賃金要件(いわゆる106万円の壁)が撤廃され、今後は「週20時間以上」の労働時間要件に一本化されます
(詳しくは【2026年10月予定】106万円の壁が撤廃?社会保険適用拡大に伴うパートの労務管理と企業の対策をご参照ください)。
最低賃金が全国平均1,177円へ大幅に引き上げられることで、週20時間以上働くパート・アルバイト社員はほぼ例外なく社会保険の加入対象となります。社会保険料の負担による一時的な手取り減少を懸念する労働者が「週20時間未満にシフトを減らしたい」と就業調整を希望し、現場の人手不足が加速するリスクがあります。企業側は、労働時間の再調整や手取り減を補う賃上げ、社会保険加入のメリットに関する社内説明を事前に行う必要があります。

(3)「業務改善助成金」等の公的支援策の検討

設備投資や業務効率化(ITツールの導入、生産性向上設備の購入など)を行うとともに、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる中小企業・小規模事業者に対しては、国の「業務改善助成金」などの公的支援策を活用することが可能です。

今回の審議会答申においても、最低賃金引き上げの影響を強く受ける中小企業・小規模事業者がしっかりと活用できるよう、「業務改善助成金の拡充・周知徹底」や「キャリアアップ助成金等の賃上げ加算の充実」が政府に対して強く要望されています。賃上げ原資の確保や労働環境整備に向けて、こうした助成金制度の要件を確認し、計画申請を検討することが極めて有効です。

4. 外国人労働者の雇用における最低賃金と在留資格リスク

近年、急速に増加している外国人労働者を雇用している企業、あるいは外国人経営者が「経営・管理」の在留資格を取得して事業を運営している企業においては、最低賃金法の厳守が事業継続の生命線となります。

(1)外国人労働者への最低賃金適用の絶対原則

技能実習生、育成就労生、特定技能、留学アルバイト、永住者など、在留資格や雇用形態、国籍を問わず、日本国内の事業場で働くすべての外国人労働者に対して最低賃金法(第4条)が厳格に適用されます。「日本語が十分ではないから」「見習い期間だから」といった理由で最低賃金を下回る金額を設定することは一切認められません。

(2)「日本人と同等以上の報酬」要件への波及効果

就労ビザ(「技術・人文知識・国際業務」や「特定技能」など)の在留資格審査において、入管は「日本人が従事する場合と同等額以上の報酬を受けること」を基準として定めています。

最低賃金の引き上げに伴い、社内の日本人新卒社員や同等の業務を行う日本人社員の基本給を引き上げた場合、同じ業務・職責を担う外国人社員の給料も連動して引き上げなければなりません。日本人社員のみ賃上げを行い、外国人社員を据え置いた場合、同一労働同一賃金違反となるだけでなく、入管法上の「日本人と同等以上」という要件を満たさなくなります。

(3)最低賃金割れが招く「ビザ更新不許可」と「受入適格性の喪失」

最低賃金法違反(同法第40条:50万円以下の罰金)が発生した場合、労働基準監督署からの是正勧告や処罰にとどまらず、入管実務において以下のような深刻な連鎖的リスクが発生します。

  • 入管の厳格な実務チェック:
    外国人労働者の在留資格更新や変更の申請時、入管は「賃金台帳」「総支給額」「課税証明書」「出勤簿」を厳格に照合します。基本給が最低賃金を下回っていることや、不当な手当除外による最低賃金割れが発覚した場合、「適正な労働条件が確保されていない」として在留資格の更新申請が不許可となるリスクが生じます。
  • 企業の受入機関適格性の喪失:
    特に「特定技能」制度においては、企業側が労働関係法令(最低賃金法や労働基準法など)を遵守していることが厳格な要件となります。是正勧告や罰金刑を受けた企業は、入管から「受入機関としての適格性」を喪失したと判断され、新たな外国人の受入が禁止されるだけでなく、現在雇用している特定技能外国人社員の雇用継続(ビザ更新)も不可能となります。

5. まとめ:最低賃金改定を機とした適法な賃金制度の再構築

2026年10月の最低賃金引き上げは、単なる時給の改定にとどまらず、月給制正社員の基本給再設定、固定残業代の再計算、社会保険適用への対応、そして外国人雇用におけるコンプライアンス管理に至るまで、企業経営に多大な影響を及ぼします。

最低賃金の改定を「単なる人件費のコスト増」と消極的に捉えるのではなく、適正な賃金管理による企業防衛と、法令遵守を通じた優秀な人材(日本人・外国人問わず)の定着・獲得に向けた投資と位置づけることが重要です。

「月給者の時間換算が適法か分からない」「固定残業代の変更手順に不安がある」「外国人社員の給与額が入管の要件を満たしているか心配」といった懸念をお持ちの企業様は、労働法令と国際労務(入管実務)の双方に精通した社会保険労務士などの専門家へ早期にご相談いただき、安心・適法な賃金制度の再構築を進めることをおすすめいたします。

この記事の監修者

社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛

  • 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
  • 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)

東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。

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