
採用面接は,企業の将来を左右する重要な判断の場です。しかし,法的知識が不足していると,思わぬリスクを抱えることも。本コラムでは,社労士の視点から,採用面接における法的注意点と,効果的な面接方法を徹底解説します。質の高い人材獲得と,法的リスクの回避を両立させ,採用活動を成功に導きましょう。
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目次
1.採用面接における社労士の役割
外国人雇用を前提とした採用活動において,外国人労働者の採用や,日本語能力を重視した面接など,配慮すべき視点が多様化する中で,社労士のサポートはますます重要になっています。
ここでは,社労士がどのように採用面接の現場を支えているのか,その具体的な役割を社労士の視点からご紹介します。
1-1.採用面接における法的アドバイザー
社労士は,下記のような関連法規に基づき,面接時の質問内容や対応についてアドバイスを行います。また,採用基準の策定や,応募者の評価方法についても助言し,客観的で公平な採用を支援します。
①面接時の質問内容や対応について
主な対応法令
- 労働基準法
- 男女雇用機会均等法
- 個人情報保護法 等
具体的サポート内容
- 差別につながる可能性のある質問の排除(例:国籍,宗教,家族構成など)
- 「日本語能力の確認」が不適切質問とならないような言い回しの助言
- 面接質問例のチェック・改善
- 採用プロセス全体のコンプライアンス監修
②面接官へのサポート
主なサポート内容
- 面接官向け研修の実施(面接手法/NG質問の共有など)
- 評価基準の統一・可視化のためのマニュアル整備
- 外国人応募者に対する公平な選考手法の提案
- 採用基準の策定支援(客観性・再現性のある基準)
1-2.採用後の労務管理支援
採用後も,社労士は労働条件の整備,就業規則の作成・見直し,労働時間管理など,労務管理全般に関するサポートを提供します。これにより,入社後のトラブルを未然に防ぎ,労働者が安心して働ける環境づくりに貢献します。
サポート内容例
- 労働条件通知書・労働契約書の整備
- 就業規則の作成・見直し
- 労働時間・残業管理体制の構築
- 外国人雇用における在留資格に応じた就労内容の整理
- 日本語対応を含む職場環境の整備支援
1-3.トラブル発生時の対応
万が一,採用に関するトラブルが発生した場合,社労士は,顧問契約を締結している企業側へのアドバイス等を通じて,問題解決にあたります。
想定されるトラブルと対応
- 「採用差別だ」といった申立て → 事実確認と初期対応
- 不採用通知後のクレーム対応 → 適正な記録・説明資料の整備
- 労働局とのあっせん,調整交渉の支援
- 顧問契約に基づく継続サポートによる再発防止策の立案
2.不採用通知の適切な伝え方
不採用通知は,応募者にとって非常にセンシティブなものであり,その伝え方次第で企業の印象が大きく左右されます。誠意をもって丁寧に対応することはもちろん,法的リスクを回避するための注意も欠かせません。本章では,不採用通知の基本構成,例文,作成時の注意点,よくある質問への回答を通じて,適切な対応方法を解説いたします。
2-1.不採用通知を作成する際の注意点
不採用通知は,応募者との最後の接点であると同時に,法的トラブルのリスクを孕む場面でもあります。不採用通知を作成する際には,以下の点に注意が必要です。
誠意をもって伝えること
冷たい印象を与えないよう,丁寧な言葉遣いを心がけます。企業の印象を左右する重要な要素です。
誤解を招かない表現にすること
不採用理由は,誤解を招かない前向きな表現にとどめ,詳細な記述は避けましょう。不採用理由の記載内容が名誉毀損や差別と見なされると,法的責任が問われる可能性があります。
また,応募者の日本語レベルや文化的背景によっては,不採用理由の文言が誤って伝わる可能性があります。必要に応じて簡潔で平易な日本語に言い換える,または,英語等の母語での通知を送る等の方法を検討しましょう。
差別的表現は厳禁
性別・年齢・国籍・宗教などに関する言及は,トラブルを引き起こす原因となるおそれがあります。外国人応募者に対しても,公平・中立な表現が求められます。
書面または電子メールで送付すること
電話による通知は感情的な行き違いを招く可能性があるため,記録の残る書面または電子メールでの対応が望ましいです。
通知記録の保存
万が一,差別や選考トラブルを理由に訴訟等へ発展した場合に備え,送付履歴や通知内容の記録保存は法的リスク管理の観点からも大切になります。
3.よくある質問(FAQ)
Q外国人応募者に,日本語能力のレベルをどう確認すればよいですか?
A:日本語能力試験(JLPT)のN1〜N5を参考にする方法がありますが,実務においては「会話・読み書き・聴解」の3点を分けて確認するのが効果的です。
面接時には,業務上必要な場面(電話対応・報告書作成・お客様との会話など)を想定した質問を通じて,実務に即した日本語運用力を確認しましょう。
Q:在留資格の内容や就労可否を,面接段階でどこまで確認できますか?
A:在留カードを提示してもらうことで,「在留資格の種類」「期間」「就労制限の有無」は確認できます。
ただし,面接段階では「就労制限あり」の内容(資格外活動の可否など)は慎重に取り扱うべきです。実際の雇用に至る前には,社労士や行政書士が内容を精査し,適法な雇用かどうかを確認する必要があります。
Q:外国人に対して,どのような質問が“差別的”とみなされる可能性がありますか?
A:以下のような質問は,外国人差別として問題になるリスクがあるためご注意ください。
- 出身国・宗教・民族に関する質問(例:「○○人って働き方にクセありますよね?」)
- 帰国予定の有無,家族の状況(例:「今後帰国する予定は?」「結婚していますか?」)
- 在留資格に対する偏見的な表現(例:「○○ビザの人はすぐ辞めるイメージがある」)
- 評価は業務能力・適性・価値観に基づくべきであり,属性に基づいた判断は避けましょう。
Q:面接中に言葉がうまく通じない場合,どうすればいいですか?
A:以下のような工夫をしてみましょう。
- ゆっくり・明確に話す
- 専門用語や抽象的表現を避ける
- 必要に応じて簡単な筆談・図解を使う
また,応募者の理解度を確かめながら進める姿勢が,相手に安心感を与えます。言語対応に不安がある場合,バイリンガル対応可能な担当者や通訳支援も選択肢の一つです。
Q:外国人応募者に在留資格がない場合,内定や雇用契約を結んでも問題ありませんか?
A:在留資格がなくても「内定」や「雇用契約の締結」は可能です。ただし,就労可能なビザ(在留資格)を取得しない限り,日本国内での「就労の開始」はできません。
そのため,内定通知書や雇用契約書には,「在留資格取得を条件とする」旨を明記しておくとリスクヘッジとなります。
特に,海外在住者の場合,在外の状態で契約を結び「在留資格認定証明書交付申請」を行うのが一般的です。実際の入国・ビザ(在留資格取得)・就労開始に至るまで,不安のある場合は行政書士などの専門家と連携して進めることをおすすめします。
Q:外国人応募者に“文化的に配慮すべきこと”はありますか?
A:はい,ございます。例として,以下のような点が挙げられます。
- 目を合わせない文化圏 → 無礼ではなく「敬意」として行動している場合があります。
- 質問に即答しない →「沈黙=考えている証拠」という文化もあります。
- 年齢・性別に関する質問 → 敬意を示す文化もあるため,誤解が生じやすい場面です。
評価基準を日本人と同一にする際にも,文化的背景を念頭に置いて判断することが必要です。
Q:採用後に在留資格の更新手続きが必要になった場合,どこまで会社がサポートすべきですか?
A:更新手続きは基本的に本人が行いますが,企業側は「就労内容の証明(雇用契約書等)」や「勤務実態の記録」を提供する義務があります。
更新時期・条件なども把握しておくと,スムーズな手続きにつながります。社労士がこのような在留資格管理を企業と一緒に支援できます。
Q:外国人応募者に対して,不採用通知の文面で気をつけることはありますか?
A:基本的な構成は日本人と同じですが,以下のような点に注意が必要です。
- 難解な日本語表現を避け,平易な文体にする
- 原因を明記しすぎない(例:「文化の違いでミスマッチ」と書くのは避ける)
- 「今後の活躍を祈る」などの前向きな締めで印象を和らげる
必要に応じて,英語や母語での補足説明を加えることも検討できます。
Q:外国人の応募が増えているのですが,社内に受け入れ体制がありません。どうすれば?
A:まずは,就業規則や労働条件通知書の見直し(多言語対応含む),社内研修やマニュアルの整備から始めましょう。
制度面だけでなく,既存社員への外国人受け入れに関する研修も重要です。社労士として,そうした体制作りの支援も可能です。
Q:不採用理由を具体的に伝えるべきですか?
A:基本的には伝える必要はありません。
抽象的に伝えることは可能ですが,詳細に踏み込むと誤解や反論を招く可能性があるため,慎重な対応が必要です。
Q:不採用通知はいつ送るべきですか?
A:選考結果が確定し次第,速やかに送付することが望ましいです。
長期間連絡がないと,応募者の心証が悪化する可能性があります。選考が長引く場合には,途中経過の連絡を行うのが丁寧です。
4.まとめ
外国人を含む多様な人材の採用が進む中で,採用面接は単なる「選考の場」ではなく,企業の信頼性や法令順守の姿勢を示す重要なプロセスとなっています。
本コラムでは,採用面接における法的リスクの回避を軸に,労働関連法規に基づく注意点,質問設計,不採用通知の配慮,そして外国人採用特有の在留資格や文化理解への対応まで,実務に役立つ視点を網羅的に解説しました。「この質問,大丈夫かな?」「ビザのことが不安…」そう感じたときこそ,専門家の知見が力になります。
貴社の採用が,安全かつ成功につながるよう,ぜひ社労士のサポートを積極的にご活用ください。
この記事の監修者

社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛
- 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
- 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)
東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。