
本コラムでは,「キャリアアップ助成金」について,助成金制度や申請についてお伝えします。働く人のキャリアアップにつなげ,企業の成長を支える「キャリアアップ助成金」を活用して,労働者の処遇改善を促進していきましょう。
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目次
1.キャリアアップ助成金とは?
ここではキャリアアップ助成金の仕組みと特徴をわかりやすく解説します。「どんな目的で」「誰が対象になり」「どんなコースがあるか」を押さえ,社会保険労務士(=社労士)が制度の全体像を説明します。
1-1.助成金の目的と概要
キャリアアップ助成金は,有期契約労働者・短時間労働者・派遣労働者といった非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するために設けられた国の助成金制度です。この助成金の目的は,企業内での「人材育成」「処遇改善」「安定的な雇用確保」を支援することを目的としています。
キャリアアップ助成金には,大きく分けて2つの支援分野があります。
【①正社員化支援】
非正規雇用の労働者を正社員へ転換させることを目的とした支援です。
コース名 | 主な要件 |
---|---|
正社員化コース | 有期雇用労働者等を正社員に転換 |
障害者正社員化コース | 障害のある有期雇用労働者等を正規雇用に転換 |
【②処遇改善支援】
労働条件や待遇を改善し,雇用の安定と職場環境の向上を目指す支援です。
コース名 | 主な要件 |
---|---|
賃金規定等改定コース | 基本給の賃金規定を3%以上増額 |
賃金規定等共通化コース | 正規・非正規労働者間で共通の賃金規定を新設・適用 |
賞与・退職金制度導入コース | 賞与または退職金制度を新たに導入し支給または積立 |
社会保険適用時処遇改善コース | 社会保険適用と同時に収入を増加または労働時間延長 |
1-2.対象となる事業主・労働者
キャリアアップ助成金を活用するには,対象となる事業主と労働者の条件を満たしている必要があります。ここでは,それぞれの要件をわかりやすく整理して解説します。
キャリアアップ助成金の対象となる事業主 ※全コース共通
助成金を受給するためには,以下の条件を満たす必要があります。
- 雇用保険適用事業所であること(業種問わず,労働者を1名以上雇用している事業所であること)
- キャリアアップ管理者を選任していること
- キャリアアップ計画書を作成し,都道府県労働局へ提出していること
- 対象労働者の労働条件・勤務状況・賃金支払い状況を明確にした書類を整備していること
- 労働者の正社員化や処遇改善に積極的に取り組んでいること
※キャリアアップ管理者とは,有期雇用労働者などのキャリアアップ支援に必要な知識・経験を有していると認められる者を指します。原則として,自社の従業員から選任する必要がありますが,事業主や役員が兼任することも可能です。
キャリアアップ助成金の対象となる労働者
キャリアアップ助成金の対象となる労働者には,以下の要件が定められています。
- 非正規雇用労働者(※コースによっては正社員も対象)
- 雇用保険の被保険者であること
- 一定期間以上の雇用実績があること
- 支給申請日に在職中であること
- 事業主の3親等以内の親族ではないこと
各コースによっては,さらに詳細な「雇用期間要件」「賃金要件」などが定められています。助成金申請の際は,コースごとの要件を必ず個別に確認しましょう。
自社が要件を満たしているかどうか不安な場合は,社労士などに相談することもおすすめです。
2.賞与・退職金制度導入コースの詳細
続いて,この章ではキャリアアップ助成金の中でも賞与・退職金制度を導入した際に支給を受けることができる「賞与・退職金制度導入コース」について詳しい内容を説明していきます。
2-1.支給要件と支給金額
「賞与・退職金制度導入コース」を活用するためには,以下の要件をすべて満たす必要があります。
支給要件
- 就業規則または労働協約により,すべての有期雇用労働者等に対して賞与制度または退職金制度(または両方)を新たに設け,適用していること
- 賞与または退職金制度を6ヶ月以上運用していること
- 制度適用後も,基本給や定額支給される諸手当が減額されていないこと
上記要件は,既存制度の単なる拡大や,対象者限定の導入では支給対象にならず,社内全体への新設・適用が必要となります。
賞与・退職金制度導入コースの支給金額
導入内容 | 中小企業 | 大企業 |
---|---|---|
賞与または退職金制度いずれか導入 | 40万円 | 30万円 |
賞与および退職金制度を同時導入 | 56万8,000円 | 42万6,000円 |
支給対象外となるケース
たとえ支給要件を満たしていても,以下に該当する場合は助成金の支給対象外となるため注意が必要です。
- 過去5年以内に助成金の不正受給を行ったことがある
- 労働保険料の滞納がある
- 過去1年以内に労働関係法令違反がある
このような申請準備をしたのに要件を満たしていなかった!ということがないように,申請前には,労働局や社労士に確認し,リスクを未然に防ぎましょう!
2-2.申請に必要な書類
助成金の申請については以下の書類が必要となります。事前によく確認しておきましょう。
申請書類
- キャリアアップ計画書
- キャリアアップ助成金支給申請書
- 賞与・退職金制度導入コース内訳
- 支給要件確認申立書
- 支払方法・受取人住所届
※未登録または振込口座変更の場合のみ必要
添付書類
- 制度新設前後の就業規則または労働協約
- 対象労働者全員の制度新設前後の雇用契約書または労働条件通知書
- 対象労働者全員の初回の支給・積立前後及び賞与支給月分の賃金台帳
- 賃金台帳等に関する確認書
※制度適用後の賃金が支給されていることについて,事業主が労働者へ確認していること
申請書は,厚生労働省ホームページからダウンロードできます。
申請に必要とされる書類は量が多く複雑になっています。また,書類の記載内容に不備があると,申請が却下される可能性があるため,正確に記載しましょう。書類作成が困難な場合には専門の社労士へ依頼することも検討してみましょう。
2-3.申請手続きの流れ
助成金の申請手続きは,一般的に以下のような流れで進みます。
- キャリアアップ計画書の作成・提出
制度導入の前日が提出期限となります - 賞与または退職金制度の導入
就業規則または労働協約の改定を行います - 制度導入後の運用状況の確認
制度導入後,「6ヶ月間」の運用が必要になります。 - 助成金申請書の作成・提出
初回の賞与支給,または,退職金積立後「6ヶ月分」の賃金支払い日の翌日から「2ヶ月以内」が提出期限です。 - 審査
審査期間は,約3~6ヶ月程度が一般的です。 - 助成金の支給
3.申請にあたっての注意点
キャリアアップ助成金の支給を受けるためには,正確な手続きを行うことと,スケジュール管理が重要となります。ここでは,申請時に特に注意すべきポイントを見てきましょう。
3-1.書類提出と申請の期限
申請にあたっては,以下2つのタイミングで提出期限が定められています。
コース実施前に必要な手続き
- キャリアアップ計画書含め,申請書類一式を, 実施予定日の前日までに 都道府県労働局へ提出します。
※計画書の提出がない場合,キャリアアップ助成金の支給要件を満たさず不支給になります。
制度実施後に必要な手続き
- 支給申請は,「初回の賞与の支給日」,または「退職金の積立て後6か月分の賃金を支給した日の翌日」から2ヶ月以内に行う必要があります。
- 申請期限を1日でも過ぎると申請不可となります。スケジュール管理を徹底しましょう。
また,近年「電子申請」が可能な助成金も多くあります。電子申請であれば,閉庁時間や休日など関係なく,いつでも手続きが可能なためおすすめです。
3-2.対象労働者の範囲
賞与・退職金制度導入コースでは,対象となる労働者の設定にも注意が必要です。
原則「対象」とすべき労働者
- すべての有期雇用労働者等
※合理的理由なく除外することは不可とされています。
例外として認められる範囲
- 例:「勤続1年以上」など,合理的な加入要件が設けられていれば認められるケースがあります。
(退職金の性質=功労報償として合理的と判断されるため)
また,対象とされなかったケースの例として,「特別な理由なく一部労働者のみ適用除外」していたことや,「不明確な基準での適用範囲設定」していたこと等があげられます。
もし 少しでも判断に迷った場合は,助成金の専門家である社労士への相談がおすすめです。要件を一つでも満たさない場合が,助成金の不支給決定にもつながるため,慎重に対応しましょう。
4.よくある質問(FAQ)
賞与・退職金制度導入コースの申請にあたり,よく寄せられる質問と回答をまとめました。
Q1. 対象となる労働者の条件は何ですか?
A:賞与・退職金制度導入日の前日より3か月以上前から導入日以降6か月以上の期間継続して雇用されていることが条件となります。
さらに,制度導入後も6ヶ月以上継続して雇用されていることが条件となります。
また,雇用保険の被保険者であることが必須です。支給申請日時点で離職している場合は対象外になるのでご注意ください。
Q2. 賞与・退職金の支給額に条件はありますか?
A:はい,具体的な最低支給額が設定されています。
・賞与 6ヶ月分相当として5万円以上支給
・退職金 1ヶ月分で3,000円以上または6ヶ月分で1万8,000円以上積立
この金額を満たしていない場合,助成金支給の対象とはなりません。
Q3. 「一部対象拡大」の場合は支給対象になりますか?
A:いいえ,支給対象になりません。
既存の就業規則に賞与・退職金制度が存在しており,単に対象者を拡大するだけでは「新設」とはみなされず,支給対象外となります。新たに制度を設ける必要があります。
Q4. 支給要件を満たしても不支給になることはありますか?
A:要件を満たしていても不支給となるケースもあります。次のような場合は支給されませんので注意しましょう。
・過去5年以内に不正受給歴がある
・労働保険料の滞納がある
・過去1年以内に労働関係法令違反がある
自社にこのようなことがないか否か,申請前に,社労士や労働局への事前確認をすることをも有効です。
Q5. 賞与と退職金を両方導入したら支給額はどうなりますか?
A:賞与・退職金の両方を新たに導入した場合,支給額が増額されます。
・中小企業の場合 56万8,000円
・大企業の場合 42万6,000円
※支給は1事業所1回のみとなります。
Q6. 役所に行くスケジュールが取れません。電子申請は利用できますか?
A:はい,電子申請も可能です。
電子申請を活用すれば,労働局の閉庁時間や休日でも申請手続きができるというメリットがあります。
Q7. 退職金制度に「勤続要件」を設けるのはOKですか?
A:はい。「合理的な要件」であれば問題ありません。
例えば「勤続1年以上」といった要件は,退職金の性質(功労報償)に照らして合理的と認められます。
ただし,著しく長い勤続年数(例:10年超など)を要件とする場合は,合理性を欠く可能性があるため注意が必要です。
5.まとめ
本コラムでは,キャリアアップ助成金の仕組みや申請手続きについて詳しく解説しました。キャリアアップ助成金の申請には,細かな支給要件の理解や,正確な書類作成と期限管理が求められるため,ハードルが高いと感じる方も少なくありません。
しかし,制度を上手に活用することで,労働者の処遇改善・安心できる職場づくりや,モチベーション向上・優秀な人材の採用と定着,そして企業の社会的信用アップ・イメージ向上にもつながり,数多くのメリットを得ることができます。
当社,社会保険労務士法人第一綜合事務所でも,キャリアアップ助成金に関するご相談を随時受け付けております。助成金制度に精通したスタッフがチーム体制でサポートさせていただきます。まずはお気軽にご相談ください!
この記事の監修者

社会保険労務士法人第一綜合事務所
社会保険労務士 菅澤 賛
- 全国社会保険労務士会連合会(登録番号13250145)
- 東京都社会保険労務士会(登録番号1332119)
東京オフィス所属。これまで800社以上の中小企業に対し、業種・規模を問わず労務相談や助成金相談の実績がある。就業規則、賃金設計、固定残業制度の導入支援など幅広く支援し、企業の実務に即したアドバイスを信念とする。